相手がいるときは「乗り換え」を売る

もうひと工夫が要るのが、相手のいるキャンセルです。

人付き合いや行事を一方的にやめると、関係そのものが壊れてしまいます。そこで売られるのは「やめる」ではなく「乗り換え」です。

年賀状をやめたい人には、「年賀状じまい」のあいさつ文例やデザインを用意するサービスがあり、やめること自体を礼儀正しいあいさつに変えてくれます。飲み会も、お酒を抜いて集まる楽しさだけを残す形が広がりました。ノンアルコール飲料の市場はメーカーの推計でこの10年におよそ1.6倍となり、キリンの「グリーンズフリー」は累計2億本を超えています。

やめたいのは、人付き合いそのものではありません。年賀状の準備やお酒の席といった、負担の重いやり方のほうです。つながりは残したまま、やり方だけを軽くする。相手がいる場面でも、売られているのは「引き算」なのです。

「睡眠キャンセル」には、商品が見当たらない

一方で、商品になりにくいキャンセルもあります。代表が「睡眠キャンセル界隈」です。

夜更かしで睡眠を削ってしまう、という意味の言葉で、「睡眠キャンセル」は検索分析会社が去年の夏に公表した集計で、月に平均およそ1,450回検索されていました。ところが、睡眠キャンセルを応援する商品は見当たりません。同じキャンセルでも、「コンロキャンセル界隈」には、電子レンジで一品作れる調理の素があるのに、です。

理由は単純で、コンロをやめても、料理という結果は残ります。バスタオルをやめても、体は乾きます。しかし睡眠をやめると、休息という結果そのものが消えてしまう。ここに、この市場のいちばん大事なルールがあります。商品になりやすいのは、結果はそのままで、手間だけを引き算できるキャンセルなのです。