キャンセルは、お金の節約とはかぎらない

もうひとつ、見逃せない特徴があります。キャンセルは、必ずしもお金の節約ではない、ということです。

お風呂をキャンセルする人はドライシャンプーを買い、自炊をやめる人は冷凍の宅配食を頼む。宅配食のnoshは、会社の発表で、今年7月に累計1億7,000万食を超えました。最近では、お金を払って飲食店の行列に並ばずに入れる「TableCheck FastPass」という優先案内サービスまで登場しています。

背景にあるのは、お金というより、時間と気力の不足です。人材サービス会社の調査では、仕事を終えて帰宅した時点で残っている気力が、ゲームでいう残りHP30%以下だと答えた人が55.7%いました。今年7月の日本生産性本部の調査でも、副業を「将来的には行ってみたい」と答えた働く人は27.6%と、2020年の同じ調査から12.6ポイント下がっています。

理由まで尋ねた調査ではありませんが、本業のあとにもうひとつ何かをする余裕が、細っているように見えます。「やめたい」という気持ちの正体は、使える時間と気力が、もう残り少ないことなのです。

浮いた時間とお金は、報われる場所へ

では、やめて浮いた時間とお金は、どこへ行くのでしょうか。推し活をしている人への調査では、48.7%が推し活のために節約をしていて、節約している人が削るものの1位は食費でした。

この調査が、キャンセルとのつながりを直接示したわけではありません。ただ、ここからは、ひとつの見立てができます。報われない出費を引き算して、報われる出費に足す。キャンセルとは、消費をやめて市場から出ていくことではなく、お金と時間の使い先を、自分の努力が報われる場所へ動かすことなのです。

だから企業は、この流れを追いかけます。「キャンセル界隈」が金脈に見えるとしたら、そこにいるのが「買うのをやめた人」ではなく、「使い先を選び直している人」だからです。引き算は、あきらめではなく、次の足し算のためにある。「やめる」が売れる時代の裏側には、そんな消費者の姿があります。

<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年8月31日配信『「やめる」はなぜ流行る?キャンセル界隈から始める「引き算の経済学」』から抜粋してまとめたものです。