この市場は、流行語より古い

「キャンセル界隈」という言葉が広がったのは2024年です。ただ、手間をやめさせてくれる商品は、それよりはるかに前から売れていました。

アイロンのいらないワイシャツ「NON IRONMAX」は2009年発売で、累計1,700万枚。朝の洗顔から化粧下地までを1枚で済ませる朝用シートマスク「サボリーノ 目ざまシート」は2015年。こすらずに洗える浴室用洗剤「ルックプラス バスタブクレンジング」は2018年に出て、シリーズ累計出荷は1億3,000万個です。

先ほどのホテルスタイルタオルも2006年生まれでした。つまり、流行が市場を生んだのではありません。手間を引き算する商品は十数年前からずっと売れていて、2024年に起きたのは、名前がついたこと。

しかも、ただの名前ではありません。時短やタイパが「かかる時間が何分減る」という機能の言葉なのに対して、キャンセルは、予約や約束を自分の意思で取り消すときの言葉です。仕方なく省くのではなく、私がやめると決めた、という宣言が入っている。「選んでいるのは自分だ」という気持ちの側の名前がついたことで共感が集まり、バラバラに売られていた時短の商品が、ひとつの流れとして見えるようになったのです。

「やめる」を「卒業」に翻訳する

では、企業は「やめたい」をどう商品にするのでしょうか。

ヒントは、名前の付け方にあります。「バスタオル卒業宣言」の開発担当者は、名前を決めるとき、単に「やめる」と言うと、これまでの暮らしを否定するように聞こえると考えたそうです。

そこで選ばれたのが「卒業」でした。卒業なら、これまでを否定せずに、次へ進める。やめることが、ひとつの達成になる。

同じ発想はほかにもあります。作り置きおかずの宅配サービスが、料理を休む時間を贈り物にした「料理おやすみカード」を数量限定で売り出したことがあり、味の素が2024年に始めた宅配冷凍弁当のサービスは、その名も「あえて、」。仕方なく手を抜くのではなく、自分で選んでやめる。

企業は「やめる」をそのまま売らず、卒業、おやすみ、あえて、と前向きな言葉に翻訳してから売るのです。