拘置所通い控訴を説得、応じた死刑囚

奥本死刑囚 宮崎拘置支所 2013年

一審で死刑判決が出たその日の夕方、黒原さんは奥本死刑囚が収容されている宮崎拘置所に向かった。面会室に入ってきた彼の姿を見て、思わず涙がこぼれた。「力が及ばず、申し訳ない」。

「先生は悪くないですよ。死刑でしか償う道はありません。自分は消えてなくなるべき存在なんです」。奥本死刑囚は、控訴せずに裁判を終結するつもりでいた。その頑なな態度に黒原さんは挫けそうになりながら、拘置所を後にした。

「自分の拙い弁護活動のために、目の前の青年の死刑が確定することだけは耐えられない」。黒原さんは奥本死刑囚を説得するため、毎日、拘置所に通い続けた。そして、控訴期限が迫るなか、最後は奥本死刑囚が折れるかたちで控訴に応じたのである。

「奥本は未熟な私に最後のチャンスをくれたのです。控訴は彼の意思ではありませんでしたが、このままでは私が哀れだと思ってくれたのでしょう」

心理鑑定書でようやくみえた3人殺害の動機

奥本死刑囚

控訴審で事態を打開しようと、わらにもすがる思いで上京した黒原さんは、高名な弁護士から心理鑑定の有用性を聞かされ、すぐに臨床心理士に依頼した。4か月に及ぶ心理鑑定が行われた結果、奥本死刑囚がなぜ妻と息子まで殺害したかの理由について「義母を含めた3人が一体で、自分一人だけが別世界にいるという孤独感を抱き、視野狭窄に閉ざされたものと考えられる」と分析された。

心理鑑定書を手に取った奥本死刑囚は「ずっと言葉にできなかったことが書かれている」と感じていた。福岡高裁宮崎支部もその内容に信用性があるとして証拠採用している。結局、二審でも死刑判決が見直されることはなかったが、奥本死刑囚は必死に上告を説得する黒原さんの気持ちを慮り、上告に同意した。