「生きづらさ」に光を当てた「テミスの不確かな法廷」
影山 「テミスの不確かな法廷」(NHK)を語りませんか。
倉田 松山ケンイチさんがすばらしいドラマでした。特例判事補という役ですが、子どもの頃にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)であると診断されています。父親からは「普通」であることを求められて努力しますが、なかなかうまくいかない。そういった生きづらさを抱えながら、様々な裁判に立ち会っていくわけです。
いろいろな裁判が登場します。例えば運送会社のドライバーが事故で亡くなる話を、長時間労働の問題に光を当てながら描く。エンタメとして楽しいものを描くのもドラマの役割ですが、現代社会の問題を取り上げながら、エンタメとして昇華していく役割も大切だと思っているので、その意味でも優れたドラマだと思いました。
田幸 丁寧に作られたドラマでした。松山さんの演技が、デフォルメされておらず記号的でない。非常にしっかり役づくりをされている。そのすばらしさがありつつ、ラストで職場の人たちに自分のかかえている症状を打ち明ける。するとそれに対して、まわりは「特性」と言うんです。はたから見れば「それも一つの特性だよ」と。多分私自身も、特性とか個性とかと言ってしまう気がします。
でも当事者にとっては、特性と割り切れないところがやっぱりある。割り切れないけれど、そう言えるようになりたいし、そうありたいみたいなことを松山さんが長ぜりふでおっしゃる。いくら当事者の気持ちに寄り添おうとしても、非当事者とは違うところはあるので、このラストの締めもすばらしいなと思いました。
影山 おっしゃるとおり丁寧なドラマでした。最近は大量生産で丁寧とは言えない作品も割と出てきてはいますけれど、本当に丁寧な作品でした。
内容以外では編成的な問題がありました。この期はオリンピックがあって、この作品も放送が二週あきました。ドラマ関係者は忸怩たる思いがあったでしょう。回数についても松山さんの長ぜりふは心に響いたのですが、僕はもう一週欲しかったですね。
出演者では鳴海唯さんがよかったですね。喜怒哀楽の感情をグッと抑えて、でも内面からジワッとにじみ出る表現がうまいと思いました。ゴールデンプライムで主役を張るような俳優になるんじゃないでしょうか。
遠藤憲一さんが、ギターを弾きながら忌野清志郎を絶唱していたところもありました。そういうところも含めて、いいドラマに共通していることですが、主役クラスだけでなく脇の皆さんにもちゃんと命が宿っている。それができていたドラマだったと思います。出番は多くなかったですが、和久井映見さんも、市川実日子さんもよかったし、挙げれば切りがないですが、ドラマの王道と言える作品だったと思います。
<この座談会は2026年3月31日に行われたものです>
<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト。
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。
朝日放送ラジオ番組審議会委員長。
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員。
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など。
田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。
倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














