国連食糧農業機関との契約でブータン版を開発

以来、クロスは国内外に広がってきた。国内では約3000の小・中・高校で教材として活用されている。海外での評価も高く、ドイツのボンで開催された国連の会議に招待されてのプレゼンや、学生と平本教授がヨーロッパ各国を訪問して紹介したことで急速に広がった。現在では世界71か国で約70万人が体験するまでになっている。

さらに、国連食糧農業機関(FAO)から声がかかり、2023年12月から随意契約によって数種類の海外版を製作している。日本の組織が国連の機関から指名されて直接契約するケースは極めて稀だ。

海外版のひとつであるブータン版の開発で中心的な役割を担ったのが「SDGs Global Youth Innovators」代表で、取材時に生命・応用バイオ学科4年だった島田颯稀さんと、副代表で経営情報学科4年だった直江海翔さん。他のメンバーとともに半年かけて開発し、完成した際には2人が国連の費用で日本代表としてブータンを訪れた。

島田颯稀さんと直江海翔さん

クロスの長所は、対象国や自治体、企業などに合わせてカードをカスタマイズできる点にある。ブータン版ではブータンの若者で構成されるワールド・ユース・フォーラムのユースメンバーと開発に取り組み、オリジナル版ではそれぞれ34枚ずつだったトレードオフカードとリソースカードに、ブータンの食料や農業の魅力と課題を反映させたカードを9枚ずつ加えた。

ブータン版で追加されたカード

島田さんは開発の過程で、ブータンの人々の自然に対する考え方に感銘を受けたと話す。

「ブータンは世界でも稀なカーボンネガティブの国です。カーボンネガティブとは、二酸化炭素を吸収できる量が、排出量を上回っている状態を指します。森が多く、自然豊かな環境を守り続けていて、開発の際に自然を切り開く手法を取ることはあり得ないと考えていることに驚きました」

直江さんがブータンの課題で深刻だと感じたのは、農業の衰退につながりかねない若者の海外流出だった。

「農業で働いてもそんなに稼ぐことができないので、若者がどんどん海外に留学し、農業を担う若者が減っていると聞きました。どうすれば若者がもっと農業に携わることができるのかを考えられるように、カードにもその要素を盛り込みました」