■「夏までの停戦」望むバイデン政権…そのわけは?

アメリカ現代政治が専門で上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘さんは、バイデン大統領が新年早々にウクライナ情勢の行方にも影響を与える“重大発表”をするとみる。
「バイデン氏は年明けにも2024年次期大統領選への再選出馬を宣言する可能性が高くなっています。夏までには選挙戦が本格化しますから、ウクライナでの戦争を“勝った戦争”として宣伝するため、できるだけ早めに終わらせたいと思っているんです」
ウクライナの後ろ盾となっているアメリカが早期停戦を望む背景には、国内の2つの情勢変化があるという。
「ゼレンスキー大統領が訪米して議会で演説しました。盛り上がったようにしか報道されないけど、実は下院の共和党議員は4割ぐらいしか出席しなかった。来てもわざと拍手しない人もいた。共和党が下院で多数派となり、ウクライナ支援は今後どうなるんだろうというのはありますよね。それと、今のところ支援のための予算は潤沢にあるけれど、2023年は景気が悪くなる年だと言われている。夏までに、景気後退の前までに戦争を早く終わらせたいという感じなのでしょうね」
■「戦争犯罪人」プーチン氏の失脚はあるか

では、アメリカ政府が描く戦争終結のシナリオはどんなものなのか。バイデン大統領は「戦争犯罪人」と呼ぶプーチン氏の排除とロシアの体制転換までは望んでいないと前嶋さんは推測する。
「アメリカ国務省の関係者と話していると、プーチン大統領を排除するところまで戦争を続けたら、余計に混乱すると思っている人が多いですよね。下手すると泥沼化して長期化する。そうなると民主党にとって痛いし、アメリカの支援もどんどん少なくなっていく。だから、その前にプーチン氏とディール(取引)したほうがいいということだと思うんですよね。ウクライナが勝っても、柔道でいう“一本勝ち”ではなくて“技あり”とか“有効”で実は引き分けにも見えるようにするという…ロシアが一方的に併合したクリミアの奪還をウクライナにどう諦めさせるのかという局面が出てくるかもしれません」
■「第三次世界大戦は絶対に避けなきゃいけない」

ゼレンスキー大統領は「クリミア奪還まで戦う」と明言しているし、アメリカやイギリスはそのための情報を提供し作戦立案を支援している。最近ではウクライナによるロシア国内へのドローン攻撃なども容認し、プーチン大統領を精神的に追い詰めている。ロシアとのディールは本当に成立するのか。そしてプーチン氏が核使用を決断するような場面は来ないのだろうか。
「最後はプーチン氏の心の中の分析になります。“ロシアは核を使わないよ”とバイデン政権は何度か言ったことがありますが、最近言わなくなりましたよね。やっぱりまだ怖いよねってことで、そこは見方が分かれると思います。アメリカ政府としては、ボタンの掛け違いで第三次世界大戦になるようなことは絶対に避けなきゃいけない。そこは変わってないんです。だから、ロシアを必要以上に刺激してはいけないし、むしろ抑えるようにしなきゃいけないんだけど、その一方で何とかウクライナを勝たせなければならない。微妙なところですよね」
TBSテレビ報道局解説委員
緒方 誠