ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻は、第二次世界大戦後の「平和と安定」の国際秩序を一気に壊し、ソ連崩壊から30年以上経ってもロシアが欧米の価値観では測れない「異質な国」であることを改めて思い知らせた。
では、2023年の世界はどうなるのか。ウクライナでの戦争は終結するのか。BS-TBS『報道1930』の解説でもお馴染みの兵頭慎治さんと前嶋和弘さんに大胆に予測してもらった。

■ウクライナとの戦争…プーチン大統領はまだやる気満々

防衛研究所政策研究部長 兵頭慎治さん 

ロシア政治や安全保障が専門で防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治さんは、ウクライナとの戦争でプーチン大統領はかなり追い込まれているが「まだやる気満々だ」と語る。

「これだけ制裁すれば、いずれロシアは戦争をできなくなるだろうと思っていましたけれど、全然そういう様子がないし、プーチン大統領は国内の反発も力で押さえつけていますよね。制裁で電子部品が入らないから精密誘導兵器は作れなくても、それ以外のものであれば戦時体制下で増産しているから、すぐに弾がなくなって撃てなくなるというのはない。イランからドローンやミサイルの供与を受けるとか、色々な抜け道や対応策も考えている」

一方の反転攻勢を強めるウクライナのゼレンスキー大統領にも焦りが見えると指摘する。

「ワシントンに行って『支援をお願いする』ってやらないと、年明けにアメリカ議会が新しくなって下院の多数派が野党の共和党に移ると支援のレベルが下がっていく可能性が出てくる。支援疲れもある。結局ウクライナ側も欧米からの支援は盤石ではないように見えるということですね」

■ロシアはしぶとい…武器が枯渇しても譲歩しない?

戦争終結のためには停戦交渉を行って着地点を見つけなければならないが、今のところ双方が折り合う余地はなく出口は全く見えないと兵頭さんは語る。武器が枯渇して戦闘能力が落ちた側が譲歩せざるを得なくなることも考えられるが、経済制裁を受けるロシアが先にそうなるとは限らないという。

「ロシアはしぶといですよね。侮れない底力のようなものがある。ソ連邦の解体、それ以前からこういう危機を乗り越えてきている。外から見える範囲内で合理的に理解できる部分だけじゃないんです。やっぱりロシア人自身が我慢強いところがあるから、プーチン大統領の“力での統制”に結構順応しちゃっている部分もある。本音では『戦争を早くやめて欲しい』と反発していても、すぐそれが政権への大きな批判につながっていくかというと、そうでもない。ロシアには『おかみには逆らわない』的な政治文化もありますから」

国家の安定や発展のためには「強力な指導者」が不可欠であると考えるロシア人は多く、権威主義的な国家統治スタイルが許容されてきた歴史もある。ピョートル大帝、エカチェリーナ2世、アレクサンドル1世、レーニン、スターリン…この系譜にプーチン氏も連なるのだろうか。

■ターニングポイントは「2023年秋」か

ウクライナでの戦争はどうなるのか。考えられる第1のシナリオは「散発的戦闘の長期化」だという。

「今のところ交渉で停戦をするというのは考えられないですよね。ロシアには誇示できる戦果がないから、これだけの犠牲者を出している状況で国内向けに説明がつかない。だから、烈度(=激しさ)が下がって境界線をめぐる散発的な戦闘のような形で長期化していく可能性が高い。ウクライナによるロシア領内の爆破とか攻撃とかも続いていくと思います。やっぱりプーチン氏が態度を変えない限り、ウクライナ側からというのはちょっと考えにくいですね」

兵頭さんは、戦争のターニングポイントは、2024年3月のロシア大統領選に向けた選挙戦がスタートする「2023年秋」との見方を示した。

「通常だと9月くらいには大統領選のキャンペーンが始まります。それに向けて戦争を長期化させるのか、どこかで収束させるのか、どちらが自分にとって政治的に都合がいいのかという計算が働いてくるはずなんです。予定通り選挙をするなら収束の方向に向かわざるを得ない気がしますが、ロシア全土への総戒厳令も否定できない。総戒厳令となると選挙は延期になる。今はその可能性のほうが高いんじゃないでしょうか」

■プーチン氏の核使用は本当にあり得ないのか

プーチン大統領には「戦争に勝つ」という選択肢しか残されておらず、そのためには核攻撃の可能性も排除できないと兵頭さんは危惧する。

「最近の大統領の言動を見ていると、この戦争でもっと成果を出さないと自分の足元が崩れる、だから勝つしかないと。戦争で妥協して選挙に勝とう、みたいな風には見えないですよね。4州の併合宣言を出したり部分動員をかけたりして、引くに引けないような状況に自らを追い込んでいます。今は核を使用するような状況ではないですけど、追い込まれ具合では最終的にはあり得るのではないかという気もするわけですよ。西側もプーチン氏をそこまで追い込んでしまっているんです」