※2013年に出された政府と日銀の共同声明には、日銀が物価目標2%の実現をできるだけ早期に目指すと明記されています。一方で、政府は、規制緩和や経済構造の変革、成長力の強化などを強力に推進すると約束していました。
■共同声明は政府に導入させられた?

ーー共同声明の経緯は?
「日銀はもっと積極的な政策をすべきだ」という議論が高まって、まずは高めの物価目標を掲げてその達成を目指すと。うまく行かない場合は追加策もするという形で、日銀に非常に積極的な金融緩和策をさせるために、まずは物価目標を導入せよと。2%の物価目標は形式的には日銀が決めたんですけども、客観的には導入させられたという形です。
ただ日本経済の実力と比べると(物価上昇率)2%の水準はすごく高くて、今我々が実感したように2%物価が上がるとすごく物価高で困ってしまう。それで賃金が3%上がってればいいんですが、賃金はなかなか上がらない。というのは企業には日本の市場はあまり成長するように見えないので、中で今のように原油高とか物価高で2%を超える、もう既に4%に近づこうとしていますが、そうするとどんどん賃金が目減りしていってしまう。2%の物価目標というのは日本経済にとっては、ある意味逆風になるような、達成したら大変なことになるような目標だったんです。
非常に高い目標を掲げれば日銀もすごく積極的な金融政策をやるだろう、ということで、2013年の1月に日銀が2%物価目標を導入して、政府との間で共同声明を出した。日銀の金融政策だけが非常に突出していたが、効果はない一方で、色々なマイナス面もあった。急激な円安などが今の硬直的な金融政策の副作用だと言えます。
■共同声明見直し論がなぜ今?
ーー共同声明見直し、なぜ浮上してきたと思いますか?
当時は安倍政権だったんですが、政府も政権が変わって考え方も変わったのが一つ。今では異例の金融緩和が円安を招くなど副作用もだいぶ出てきたので、そんなに無理な政策はして欲しくない、あるいはもっと柔軟な政策に戻ってほしいという思いが国民や政府の間に出てきたということ。
黒田総裁が代わる来年4月のタイミングで、2%の高い物価目標の呪縛から日銀も解放し、もうちょっと柔軟な金融政策できるように助けてあげると、多分政府としてはそういう思いがあって見直すということかと。
■共同声明どうすべき?

ーー木内さんは改定についてはどうすべきだと?
私は改定ではなくて、日銀自らが「この物価目標というのは中長期の目標で、金融政策とそんなに強く結びついていない」というふうに解釈をし直すというのが一番いいと思います。2%の目標は、スローガンのようなものとして残していくと。これが多分一番いいんじゃないか。政策変更のときに必ず政府にお伺いをするという前例になってしまうので。そんな国はありませんから。そういう前例を作らないようにするためにも、日銀が自ら位置付けを変えるのがいい。
共同声明も非常に複雑な文章ですが、実は日銀が金融政策だけで2%の達成をすぐに目指しますとは書いていない。私も日銀の中にいたので、日銀側としてはそういう文章に落とし込んだ。「政府とか企業とかみんな頑張って成長率を高めていきましょう、うまくいったら物価の水準も上がってきます」と、「その時は日銀は速やかに2%物価目標達成を目指して頑張ります」ということを書いている。まずは企業や政府などの努力によって経済の力が高まることが前提になっていて、金融政策だけではないというてこと。そう考えれば本来金融政策を本当に縛るような目標には実はなっていないので、改定するのではなく本来の解釈に戻しますということで解決できるはず。多くの人が2%物価目標を速やかに達成することを日銀が義務付けられたと考えているのは、共同声明を結んだ後に総裁になった黒田総裁の解釈がそうなっているから。