■いじめは少し減り始めたかも…という調査報告

私は前回の連載(第8回・2021年5月9日)で、故・森田洋司(いじめ研究の泰斗)の「いじめ認知件数の多さは、教職員が子どもたちの命を守るためにきちんと認知し、寄り添い、対応した証」、「認知件数は子どもたちの“心の傷”の数」、「認知とは“気づき”」などの言葉を引用して、2013年の「いじめ防止対策推進法」(以下「防止法」)に則る積極的ないじめ認知が、いじめ解消に向けた取り組みのスタートラインに立つことだと記した。


(故・森田洋司(鳴門教育大学特任教授)の講演 写真提供:鳴門教育大学)

その後(2021年7月16日)、国立教育政策研究所(以下「国研」)から、これを裏づけるような調査報告があった。文科省のいじめ認知件数は過去最多を更新し続けているが、実際の発生件数は増えておらず、「防止法」の影響もあって、むしろ減っている可能性があることを示すものだった。

国研は1998年以降、大都市近郊のある地方都市をサンプルに、小学4年生以上の全ての小中学生(約4000人)を対象に、いじめの経験について尋ねてきた。まずは“暴力を伴わない被害”について。2018年度、小学6年生に過去3年の「仲間はずれ・無視・陰口」といった暴力を伴わない被害経験率を聞いたところ80%で、6年前より7%減った。加害経験は69%で17%減った。中学3年生の過去3年の被害経験率は68%(3%減)、加害経験率は64%(8%減)だった。国研は、“暴力を伴わない被害”は「防止法」の影響で小学校では減少傾向、中学校でも加害経験は減少傾向が見られたと分析している。

では“暴力を伴ういじめ”はどうか。「ひどくぶつかる・叩く・蹴る」では、小学6年生の過去3年の被害経験率は56%(6年前の4%減)、加害経験率は36%(8%減)だった。中学3年生の被害経験率は36%、加害経験率は25%で、ともに5%減った。国研は“暴力を伴ういじめ”についても「防止法」により小学校では減少傾向にあるが、中学校では「はっきりした傾向をうかがうことは困難」だったとしている。

■「いじめ防止対策推進法」の効果が出てきた?

認知件数が増え続ける一方で、実際のいじめは減少傾向に入ったとすれば、「防止法」の制定による積極的な認知への姿勢が、いじめの抑制に繋がりつつある可能性がある。

国研も「防止法」施行が教職員の意識を変化させた結果、①いじめに対する指導の変化による経験率等の減少、②いじめの認知に対する学校の姿勢の転換による認知件数の増加という2つの流れを生んだ、と考察。今後、いじめ認知件数の増加が教職員のさらなる意識・指導の変化につながり、なお一層の経験率等の減少をもたらすことも期待しているという。

国研の調査報告書は、「いじめ認知件数」は「いじめ発生件数」ではない、とも記している。認知件数は学校が把握できた件数であって、実際に発生した数ではない、ということだ。認知件数の増加を過度に問題視せず、認知への積極姿勢によって、実際の発生が減ったり、“見逃し”が減ったりすることこそ重要な視点となる。

やや減ったとはいえ、小学6年生の回答における過去3年での「仲間はずれ・無視・陰口」といった暴力を伴わない被害の経験率が80%など、その頻度には改めて驚かされる。しかし、これが教育現場の実態だ。いじめは大人の目から隠れて行われることも多い。これらを含めてどう見逃しを減らし、重大事態への深刻化を防ぐのか。そしてもっと根本的な「いじめ予防」についても、今後検証していきたい。


(都内小学校でのいじめ授業)