■町田市のケースでも疑問視される「防止法」の遵守姿勢

女児が死亡した東京・町田市の小学校では、「防止法」に則ったいじめ防止対策は、どうだったのか。いじめの芽を見逃さない…と、積極的な認知や対応、そして予防教育は日常的に行われていたのだろうか。残念ながら、いくつかの事実から、疑問視せざるを得ない。
 
例えば「防止法」では、“いじめ重大事態”の定義を「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命・心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」、「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」とした上で、2017年のガイドラインでは「重大事態は事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、“疑い”が生じた段階で調査を開始しなければならない」と強調している。

しかし町田市のケースでは、2020年11月に女児が亡くなっているにもかかわらず、学校側が市の教育委員会に「重大事態」として報告したのは、今年2月に入ってからだった。市教委によると、遺族の“子どもたちには自殺を伝えないで調査してほしい”との意向があったためと言うが、遺族の代理人、金子春菜弁護士は「重大事態は明らかで法律違反だ」と述べている。また市教委に取材すると、この学校は9月の「心のアンケート」で明らかになったケースについても「いじめにつながる恐れのある行為」としつつ、「いじめ」としては認知していなかったことが分かった。市教委は、学校のこの対応についても調査していることを明らかにした。

■忘れてはいけない重大事態の増加

繰り返すが、認知件数の増減はあくまでも参考にすぎない。ただその姿勢は問われる。大切なのは“見逃し”や重大事態への深刻化をどう防ぐかということだが、町田市の小学校が積極的に認知していたとは言えまい。自殺という、まさに重大事態が起こってしまった。国研の調査にある通り、全体的には実際のいじめが「防止法」の影響で、やや減っているとしても、第3回で述べたように「いじめ重大事態」は、2018(平成30)年度は602件と、前年度の474件から3割も増えている。この最も憂慮すべき増加傾向を忘れてはいけない。「防止法」の趣旨の通り、被害者の声に丁寧に耳を傾けることを重視し、そこからスタートする対応が求められる。

執筆者:TBSテレビ「news23」編集長 川上敬二郎