■岡山市の“認知力”は、新潟市の23分の1?

一方、1000人あたりの認知件数が新潟市の23分の1だった岡山市。いじめ発見については、新潟市とは対照的で、7割以上(72.5%)は被害者やその保護者からの訴え等を通した「学校の教職員以外からの情報」によるものだった。見えないいじめを学校側で掘り起こせなかったという面もあったのではないか。岡山市の認知件数は、2017(平成29)年度は1038件に増えたが、その後、全国的な増加傾向と逆行して、2018(平成30)年度は982件、2019(令和元)年度は622件とピーク時の6割に減ってしまった。新潟市の認知件数1万5431件と比べると、圧倒的に少ない。一方、岡山市の令和元年度の「いじめ重大事態」の件数は11件に上った。こうした現状について、岡山市教育委員会指導課教育支援課の渡邉裕一課長に、反省点や改善点がないのかを聞くと、メールで次のような回答があった。

岡山市教育委員会指導課教育支援課の渡邉裕一課長からの回答:
本市では、ここ数年、いじめの認知が進んでいると認識していたことから、令和元年度の結果は心配する部分もありますが、全ての小中学校で「学校での適応感等を測る質問紙調査」を活用したり、各校での教育相談やアンケートにより、いじめの積極的認知に努めています。いじめを認知した時、早期に対応できる指導体制づくりを進め、教職員間で児童生徒の情報を共有し、一部の教員で抱え込むのではなく、より多くの教職員で組織的に対応することの重要性を管理職や生徒指導担当者会に指示をしており、学校の対応力が高まっていると感じています。学校は気になる児童生徒に声かけや教育相談を行う等、児童生徒の居場所づくりや絆づくり等の人間関係づくりの取組を通して問題行動等の未然防止・早期対応に取り組んでいます。日常のささいな言動からもいじめにつながる場合があると意識し、教職員が児童生徒の状況をしっかり把握し早期に対応しています。

また、学校から家庭等への積極的な情報発信や、家庭訪問、懇談会、保護者からの相談対応等、日ごろから本人や保護者等と相談しやすい関係づくりに努めているところです。これらのことが、調査のいじめの発見のきっかけで「学校の教員以外からの情報」の数値につながっていると考え、教職員が周りの子どもや保護者からの訴えに丁寧に対応してきた成果と分析しています。今後増減はあると思いますが、今回の文部科学省の調査でいじめの認知件数が少ない

という結果になったことについて、明確ではないものの、これらの取組等が影響しているのではないかと分析しています。しかし、いじめを見逃すことはあってはならないことであり、認知の遅れはいじめの深刻化を招くものであるため、いじめはいつでも起こり得るものとして、学校に対して、常にいじめを積極的に認知するよう指導していく必要があると考えています。今後も他市の取組等も参考にしながら、積極的認知が進められるよう、結果を分析し施策につなげてまいりたいと考えています。


“認知件数が少ないのは、いじめが少ないから…”なのか、見逃しているのか、判断は難しい。しかし、岡山市では1年間に11件という重大事態があったことも確かだ。もともと学校側に「いじめ」と認知されていなかったものが、長期化した不登校の末に保護者の「実は…」という報告によって、いきなり「重大事態」とカウントしなければならないケースもあったという。そのような見逃しの件数が11件のうちの何件か、という内訳までは市教委の渡邉裕一学校支援課長から答えてもらえなかったが、こうした“見逃し”もあることに市教委も苦慮しているのだろう。

渡邉課長には他にも、新潟市のような「いじめ防止等のための基本的な方針」があるかを聞くと、平成30年3月に改定された『岡山市いじめ等の問題行動及び不登校の防止に関する基本方針』を示されたが、例えばアンケートについては、「教職員は日々の見守りの他に、面談やアンケート等を実施し、授業等学校生活全ての中においていじめ等の問題行動や不登校等につながる事象を早期に発見し、支援するよう心がける」との記載があるだけで、それ以上の詳しい記述はない。

また、岡山市には、教職員全員に配布される新潟市の「いじめ初期対応ガイドブック」のようなものはない。初期対応について教職員にどう伝えているのかを問うと、「『岡山市いじめ等の問題行動及び不登校の防止に関する基本方針』に基づいて、各校で『学校いじめ防止基本方針』を策定し、既存の校内生徒指導委員会を活用しつつ、スクールカウンセラーや『子ども相談主事(岡山市SSW)』、いじめ専門相談員等を加えた、いじめ防止のための校内組織を設置している」とのこと。

基本的には各学校のやり方を尊重しているということだったが、各学校に任せてしまうことで認知にバラつきが出ることも考えられるのではないだろうか。取材に対し、渡邉課長は「今回、新潟市の事例を詳しく知って、素晴らしいと思った」とも話していたので、改善に乗り出してくれるのではないかと期待している。“積極的な認知”について文科省から「通知」などが出ていても、具体的なやり方など詳細な情報は、なかなか全国に伝わっていない現状が垣間見られた。