これから注視すべきは「食事・食卓」のシーン

最後にこれからの表象について注視するべきは、性的マイノリティを描く映画・テレビドラマにおいて食事や食卓のイメージがどのような政治的役割を担うかという点だろう。

たとえば『ぼくたちん家』(2025)のように、日本を含め、アジア圏の作品には食の場面が頻出する。これらのイメージは、登場人物同士の親密な関係を性愛規範に限定しない形で豊かに描くことのできる重要な表現方法である。

一方で、何をどこで、どのように作り、誰とどのような場所で食べるのか、という一つ一つの選択は、性的マイノリティの物語に対する観客・視聴者の円滑な感情移入を可能にする媒介となりうると同時に、「伝統的」な家族規範や性愛規範へ同化するかたちでのみ許される、「健全で従順な」性的マイノリティの物語の規範性を強化してしまう可能性もある。

性的マイノリティを描く映画・テレビドラマの未来はどこへ向かうのか。性的マイノリティの経験をめぐる物語が、単純に次々と消費されるだけの「商品」で完結するのではなく、性的マイノリティが生きやすい社会構築の実現に貢献するような作品づくりが広がっていくことを期待したい。

<執筆者略歴>
久保 豊(くぼ・ゆたか)
金沢大学人間社会研究域准教授。
京都大学大学院博士課程修了。博士(人間・環境学)。

日本におけるLGBT・クィア映画作品に描かれる性的マイノリティ、同性間の親密性、特定の社会規範から逸脱すると考えられる「何か」のイメージを分析するだけでなく、どのような製作形態のもと作品が出来上がり、どのような形で受容されているのかについて研究。

著書に「夕焼雲の彼方にー木下惠介とクィアな感性」(ナカニシヤ出版・2022)

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