契機となった「おっさんずラブ」

こうした状況の拡大は性的マイノリティを描く作品の増加を当然示唆するのだが、2020年代へとその流れを広げる契機となったのが、テレビドラマ『おっさんずラブ』(2018)と『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』(2019)の成功である。

日本映画製作者連盟のデータによれば、後者の興行収入は26.5億円であり、ゲイであると自認する主要登場人物を含む日本映画としては最も高く、それに次ぐ『劇場版 きのう何食べた?』(2021)の13.9億円を大きく上回る記録を保持している。

この成功を受けて制作されたテレビドラマの続編は不評に終わったが、人気のある男性俳優を起用した男同士の恋愛ドラマは金になるという一つの指標を映像メディア産業に対して打ち立てたことは間違いない。

すでに厚い読者層をもつ原作漫画・小説を映像化し、いまや若手俳優の登竜門のような勢いで製作されているBLドラマの人気もまた、その影響を受けた緻密なメディアミックス的戦略によって確立されたものであろう。そこでは、ある意味で基準化された「美しさ」が求められるため、『ひだまりが聴こえる』(2024)を例外として、障害を持つ身体や太った身体は基本的に物語から排除されている。

性的マイノリティを描く作品の無視できない「偏り」

このように排除される身体の問題は、映像メディア産業において、性的マイノリティのなかでも特定の物語が優先的に映像化されやすいという構造的な表象の格差と地続きである。

性的マイノリティにはさまざまな人が含まれるにもかかわらず、2010年代の「LGBTブーム」および2020年代に製作された作品の多くが、ゲイ男性や男性に「惹かれ」を抱く男性を主要人物とする傾向にある。

こうした状況において、『作りたい女と食べたい女』(2022、2024)、『生理のおじさんとその娘』(2023)、『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』(2024、2025)のように、女性同士の「惹かれ」やレズビアンとしてしっかり描くテレビドラマもあるし、『そばかす』(2022)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2023)、『三日月とネコ』(2024)のように、アロマンティック(他者に恋愛感情を持たない、あるいはほとんど持たない指向)、アセクシュアル(他者に性的欲求を持たない、あるいはほとんど持たない指向)、パンセクシュアル(あらゆる性別の人が恋愛感情や性的欲求の対象となる指向、全性愛)の人物を主人公(の一人)として描く映画は確かにある。

特に、『恋せぬふたり』(2022)、『今夜すきやきだよ』(2023)、『そこにきみはいて』(2025)など、アロマンティックとアセクシュアルの(とりわけ女性)表象に関しては、日本の映像メディアは世界でもっとも多くの作品を作ってきた。これらの作品の一部は、少子高齢化の進行に伴い、生殖や結婚をめぐる規範の押しつけや政治的介入に対する批判として読むこともできる。

こうした例を通じて、ゲイ男性の物語だけでなく、性的あるいは恋愛的な「惹かれ」の異なるあり方を示す作品が緩やかに増えてきてはいる印象を受ける観客・視聴者はいるだろう。

それでもなお、バイセクシュアルの女性・男性やトランスジェンダー男性を描く作品は圧倒的に少ない。こうした表象の格差は、単純に映画・テレビドラマの中での数量的な違いそのものを指すのではなく、実社会での存在すらも見えづらくしている環境や制度の状況を意味する。