「ゼネコン汚職事件」で政治家の弁護人となる

一方の猪狩は、収賄側のキーマン──“茨城のドン”と呼ばれた茨城県知事・竹内藤男の弁護人に就任する。

竹内知事は「清水建設」「鹿島」「ハザマ」「飛島建設」のゼネコン4社から計9500万円のワイロを受け取ったとして逮捕、起訴された。竹内は東大卒、建設省のキャリア官僚を経て参院議員、さらに茨城県知事を5期18年務めた大物だった。

猪狩は皮肉にも、横浜地検時代に師と仰いだ熊﨑率いる特捜部と、真正面から対峙することになったのだ。

弁護依頼のきっかけは、竹内が雇っていた前任の弁護人からメディア、記者への「情報漏洩」だった。特捜部の大鶴基成(32期)による取り調べ内容が「弁護人からマスコミに漏れている」として、検察側が激怒していたのだ。

板挟みに陥った竹内は前任弁護人を解任し、その後任として指名されたのが、猪狩だった。始まりは、熊﨑の下でゼネコン汚職捜査のキャップを務める山本修三(28期)から猪狩にかかってきた一本の電話だった。

「竹内が弁護士を代えたがっているんです。可能であれば、面会に行っていただけませんか。東京拘置所の手配はこちらでします。接見時間も十分に取れるよう計らいます」

突然の申し出に、猪狩は瞬時に“匂い”を感じ取った。

「これほどの重大事件で、有名なヤメ検弁護士がついているのに、なぜ竹内が弁護士を解任するというのか。私も元検事、検察の手口は骨身にしみている。どう考えても、検察の差し金だろう」

そう直感しながらも、猪狩は最終的に依頼を引き受ける決断をする。

「竹内知事の弁護を引き受けたことに、功名心がまったくなかったとは言えない。だが、それ以上に──苛烈な取調べにさらされ、検察幹部と弁護団の軋轢の中で孤立していく竹内を、どうしても見捨てられなかった」
「大鶴検事のペースに絡め取られ、虚偽の自白に追い込まれているのに、当時の弁護団では食い止められない。無名の私でも、せめて心の支えになれるのではないか。無実を立証できる保証はなくとも、竹内と一心同体で闘う覚悟を決めた」(「激突」猪狩俊郎)

こうして、横浜地検以来の師弟は、政界とゼネコンの癒着をめぐる大型事件を舞台に、“特捜部長と弁護人”として相まみえることになる。

筆者が担当していた番組に出演する猪狩俊郎弁護士(TBSテレビ)