■「正規軍の後から深い緑の制服と黒い制服の人が来て…」


ウクライナ側は、キーウ州での民間人被害を受けてロシアの戦争犯罪の容疑者リストを公開した。約5600件の戦争犯罪に対して501人の名があがった。そこには対外情報庁(SVR)長官、連邦保安庁(FSB)長官など正式なロシア軍の軍人ではない様々な組織の人物がいる。軍事作戦を遂行するロシア側の組織図を見てみると、約90万人といわれる、いわゆる軍隊を傘下に持つ国防省のほかに兵力を備えた組織が3つある。

約40万の兵力を持つ国家親衛隊。SVR約2万人。FSB約6万人。それぞれのトップがみな戦争犯罪人リストに名を連ねている。その中でショイグ国防相を除く3人、ナルイシキンSVR長官、ボルトニコフFSB長官、ゾロトフ国家親衛隊隊長、さらにその上に立つ連邦安全保障会議パトルシェフ書記、そしてプーチン大統領、以上5人の共通点、それが“元KGB”。これが現プーチン政権を“KGB政権“と呼ぶ所以だ。

このKGB政権の面々は、特殊な部隊を配下に置いたり、軍事組織とつながりを持ったりしている。例えば、FSBの下にあるテロ対策特殊部隊アルファ。化学物質を撒き鎮圧した2002年のモスクワ劇場占拠事件で注目された。さらに汚れ仕事を一手に受け持つチェチェンの私兵カディロフツィや、傭兵を抱える民間軍事会社ワグネルもFSBの支持で動いているといわれている。虐殺の多くは、正規軍ではなく、こうした雑多な組織の人間によって行われた可能性が高いという。世界のインテリジェンス機関の事情に詳しい国際政治学者、小谷氏に聞いた。

日本大学危機管理学部 小谷賢教授:
虐殺のあった町ブチャの住民の証言で、正規軍の後に、深い緑の制服と黒い制服を着た集団がやってきたというのがあった。おそらくその深い緑の制服は、FSBの制服だと思います。黒い服は特殊部隊。アルファやカディロフツィやワグネルの傭兵も黒い制服です。また国防省管轄の参謀本部情報総局(GRU)が抱える防諜や暗殺を行う特殊部隊スペツナズも黒い制服。こういった組織のどれかもしくは複数が虐殺に関与していると見られています。

この複雑な組織を、果たしてプーチン氏は統率できているのだろうか。

ーー戦争時に、これほど複雑な組織で統制がとれるはずがないと思うのですが?

河野克俊 前統合幕僚長
はい、(統制がとれる)はずがないです。今回ドボルニコフ総司令官が立ちましたけれど、この元KGBたちを仕切れるかと言ったらできないですよ。それからカディロフツィにワグネル、これが総司令官の指揮下に入るかって言ったら入らないですよ。一糸乱れぬ統率が取れるなら総司令官置く意味ありますけど、これでは全体を指揮できる状態ではない。今回見ていてロシアの参謀本部が作戦を立てて遂行してるのか疑問。やっぱり旧KGBが主導してる。だから最初から総司令官を立てることができず非効率なことをやってきた。

■「全都市を取るようにプーチン氏の命令を受けた」


軍や諜報機関、特殊部隊、民兵と表裏様々な組織が、統制がとれていない状態で進むロシアの軍事作戦。そんな中、最も残虐とされるチェチェンの部隊カディロフツィを率いるカディロフ首長は4月11日、こんな文章をSNSにあげた。

カディロフ首長のSNS(4月11日自身のテレグラムより)
「ルハンシクとドネツクを最初に完全解放して、その後キーウとそのほかの全都市を取るようにプーチン大統領の命を受けた」

ウクライナを占領することは考えていないと明言していたプーチン大統領だが、この話をどう読み解けばいいのだろうか。

河野克俊 前総合幕僚長:
東部で攻勢をかけても、プーチンの目的がウクライナの中立と非軍事化が目的だとすると、ここで止まることはあり得ない。キーウまでは行くということですから、私は今後かなりの長期戦になると思います。

兵頭慎治 政策研究部長:
なぜこれだけ複雑な組織、いろんな勢力が入り込む形で軍事侵攻に踏み込んだかと言うと、軍事オペレーションだけでなくその先、ゼレンスキー政権の打倒やロシア寄りのかいらい政権を樹立という政治工作まで考えていたから。そこに無理があって、それが難しくなっているにもかかわらず、引き続きこの体制でやろうとしている。特殊部隊を含めてクレムリンがコントロールできているのかが問題であって、今後できないのであればプーチン氏がずっと想定している目標達成は難しいのではと思う。

(BS-TBS 『報道1930』4月12日放送)