国内外で語り続けていた「村山談話」

村山談話はその後の歴代の内閣でも引き継がれてきた。談話を出したことの意義を、次のように語っていた。

「ある程度歴史に対する認識というものを内外に明らかにする必要があるというのが大きなポイントでね。極端に言ったら、日本の総理が信頼されるか、されんかっていうのはね、あの談話を認めるか認めんかということで決まるというくらいの意味を持っている。だからこれは否定できんわけだ。

村山談話というものをどう評価するか、と聞かれることがある。そういう時はね、後世の歴史家がね、どういう判断をするか、してくれるか。それは待つ以外にはないんでね。私は間違ったことはしていないと思うんだけども、あれは間違っとったと言う人もおるわけだから、歴史の評価を待つ以外にないと僕はそう思っている」

政界引退後、村山元総理は談話に込めた思いを説明するため、国内外で精力的に講演していた。ただ、質疑応答などでは、特に若い世代の人たちから批判的な質問を受けることも少なくなかった。

2010年1月、大分県別府市の立命館アジア太平洋大学で村山談話をテーマにした討論会が開催された。日本人と留学生が半数ずつ在籍する大学で、日本の戦争や村山談話のことを知らない学生から、遠慮のない意見が飛び交った。

「中国と仲良くした総理大臣で、日本をダメにしたとテレビ番組で見ました」

「中国や韓国で行われている反日教育は、やはり日本人としては納得できないナショナリズムの部分がどうしても出てきます」

村山元総理は、質問にひとつひとつ答えながら、若者たちに丁寧に語りかけていた。

「過去の歴史に対する誤解があるとか、解釈が違うとか、理解ができていないとか言うことは、やっぱり対立の原因になりますよね。

そりゃあナショナリズムっていうのは、否定しようったって否定しえないものがあるわけですけども、そのナショナリズムのものの考え方っていうのが、普遍的なものの考え方に立つことが必要だと思いますのでね。

まあしかし、日本の国民の大部分はね、やっぱり良識を持って、誤りは謝る。間違いは間違いということをきちっと踏まえてね、そしてお互いの信頼関係を作っていく必要があると、こういうことではないかと思うんですよね」