安易な「総理、受け止めを!」

神戸:新聞記者時代の別の先輩から私に届いた意見です。

“記者会見で「○○について、受け止めをお願いします」と質問するケースが、年を追うごとに増えていて、個人的にはすごく嫌でした。”

田畑:ああ…これは聞きますね。

神戸:今日の朝のニュースでも、「受け止めを」と言っていましたよ。

田畑:記者が議員に質問する時ですね。

神戸:そうそう。断言しますけど、かつてはなくて、ある時期から突然出てきた印象です。政治部の取材で出てきた「受け止め」が、今は社会部の取材にも広がっている感じです。

田畑:「どう受け止めていますか?」ならいいんですよね。

中井:自然ですね。

神戸:動詞を名詞化した「受け止め」が、急激に増えてきた時期があるんですよね。「学び」「気づき」もそうです。「深い学びがありますね」とか。

田畑:「気づきがありました」。

神戸:昔は言わなかったです。

田畑:ああ、そうかー…。使っちゃってるなあ。

神戸:ある時期から「学び」とか「気づき」が始まって、多分それから「受け止め」が政治のニュースでは普通に言うようになってきた。僕の勝手な推測ですが、歩いていく総理に向かって「総理、この件についての受け止めを!」と短く言えるからではないかと。

田畑:長い文章で聞けないですもんね。あの短時間でなかなか。

神戸:手を上げてさっと行っちゃうかも知れない。「総理!」と呼んでこちらを向いた瞬間に、「受け止めを!」と言ったら答えてくれるかもしれない。多分、政治部の総理番が大声で声をかけるところから始まったのではないかな、と思うんですよ。それが、県知事とかの記者会見でも「受け止めをお願いします」と言うように広がってきて。

政治部文化に政治不信の一端が?

神戸:でも、普通の方に「受け止めをお願いします」とは使いませんよね。街頭インタビューで、「ホークスが日本シリーズ出場を決めました。受け止めを」。

田畑:ははは。

中井:言わないですね!

神戸:かなり特殊な政治用語だと僕は思いますね。業界用語で、特殊な場面に限定されていると思うんです。この新聞社の先輩は「きちんと『肯定的に受け止めていますか、否定的に受け止めていますか』など、より具体的に尋ねるべきではないのか」と言っています。

田畑:時間があれば、そうしたいところ…。

神戸:僕が政治報道に対してモヤモヤしているのは、政治家の本音がちゃんと報道できているのかどうかがよくわからないからです。ほとんどオフレコ取材の世界なので、表で言えることは基本的には限られている。政治家がしっかり本音を言っていないという思いが、どこかで政治不信につながっている気がするのです。政治家がきちんと会見で答えることをしてきていない。だから、「どうせしゃべらないだろう」という前提で、「一言でもちゃんと言ってくれれば、テレビの放送では使えるじゃないか」と考えて、「受け止めを!」。で、何か言ってくれれば「ああ、よかった、言ってくれた。本音は裏のオフレコで聞こう」と記者は胸をなでおろす。僕は、政治文化のこの辺りを変えた方がいいんじゃないか、と思っているのです。