「なぜ悪いことができる組織に」調査の原点に祖父の悲劇
日本への留学経験があるリムさん。日本軍の調査に取り組む原点となったのは、自身の祖父に起きた悲劇です。

終戦後の1945年9月、マレー半島のマラッカで、祖父は日本軍の憲兵から抗日運動に関わっていると疑われ、ほかの住民とともに無人島に連行されました。
記者
「日本軍に連れてこられた人たちは、殺害され、井戸の中に放り込まれたということです」

「岡9420部隊」を研究 リム・シャオビンさん
「許しがたい犯罪ですね。何回来ても理解できない。本当にひどい」
「おじいちゃんが悲惨に殺されて、孫としても子どもの時代には大変貧乏でした。苦しんでいましたが、それは個人の問題なんです。もっと重要なのは、日本軍の組織、どうやったらこういう悪いことができる軍隊になっていったのかを追究したい。その中に731(部隊)もあれば、9420(部隊)もあります」
「岡部隊」台湾・朝鮮半島出身者も動員か?
最大で800人を超える隊員が所属していたとされる「岡9420部隊」。

近年、隊員の氏名や本籍が記された「留守名簿」が公開されるなど、日本でも実態の解明に向けた研究が進んでいます。
留守名簿を発見した専門家は、731部隊とは異なる「岡部隊」の特徴として、20人以上の台湾や朝鮮半島の出身者が動員されていたことをあげます。

滋賀医科大学 西山勝夫 名誉教授
「台湾や朝鮮の人たちは日本軍に利用されたわけで、そういう意味で被害者ですよね。もしもこの人たちの存在を突き止めることができれば、もっといろんなことが分かってくるんではないかと」
イギリスの戦犯裁判記録には、「日本軍の軍医がマレーシアの刑務所で中国系住民の受刑者に対し、“毒物による人体実験を行った”」と書かれていますが、「岡部隊」の関与は不明です。
リムさんは現在、アメリカ軍などの記録をもとに、中国・ミャンマー国境の激戦地で「岡部隊」の細菌兵器が実際に使用されたのではないかと考え、調査を続けています。

「岡9420部隊」を研究 リム・シャオビンさん
「80年も経ったのに、まだこれだけの未解明なことがあるというのは信じられない。証拠となるようなものを示したうえで、みんなに伝える、(記憶に)残してもらうというのが責任。平和な時間というのはただではこない。努力しないと守れない」
「岡9420部隊」の存在、政府は認めず…
喜入友浩キャスター:
「平和はただでは訪れない」という言葉はすごく重く、心に刺さりました。
日本政府はこうした部隊の活動について、「詳細な資料がない」などとして公式には認めていません。
また戦後、部隊に所属していた軍医たちは、アメリカに実験データを引き渡すことで戦争犯罪を免れたという指摘もあります。
上村彩子キャスター:
本来は人の命を救うはずの医療者が、戦争によって命を奪う、非人道的な行為に加担していたという歴史を、私たちはしっかりと知って、後世に伝えていかなければなりません。
現地の被害者や遺族は、真相の究明を求めています。