練習で投げられる距離は50m以下だった
北口の練習の特徴として、試合で投げる記録より距離が出ないことも挙げられる。選手によって違うが小椋は練習と試合の記録がほぼ同じで、練習の方が距離が出ることもある。多くの選手は2~5m程度の違いだが、北口は10m以上低かったという。
「練習で50m飛んだら喜んでいましたね。それで大丈夫?と聞くと『私、試合は強いんで』と言って笑っていました。実際、試合になったらプラス10m投げるんですから、大物だな、と思いました」北口の練習と試合は、「(助走最後の局面の)クロスの進むスピードが3倍くらい違う」ように小椋には見えた。「彼女なりに練習も本気で投げているのですが、試合の本気度と練習の本気度がまったく違うのだと思います」
しかし、それでは行いたい技術を、試合と同じスピードの中で練習できないことになる。「その部分を北口は、試合中に修正できるのだと思います。以前は6本の試技の前半に、50m台が必ずあったと思います。練習のスピードに近い動きで確認して、そこから試合用のスピードでその技術ができるように修正していける。それが後半や最終試技の記録に結びついて、勝負強さとなっています」
北口も21年の東京五輪から、試合会場で行うことができる練習投てきから本気度を上げ、試合の前半から記録を出せるようになった。それでも最終試技の逆転が多いのは、大学時代の練習で最後にならないと集中できないクセが身に付いているからとも言える。しかし昨年のパリ五輪では1回目の試技で65m80を投げ、それが優勝記録になった。それも成長と言っていいのかもしれない。

















