■「人とクマの無駄な衝突を防ぎたい」
ここまで話を聞くと、正直思います。「北海道は貴重な人材を失ってしまったのではないか…?」

なぜ北海道でのヒグマの研究職を離れ、秋田県職員になったのか、聞いてみました。
「研究がしたいというより、人とクマとの無駄な衝突を防ぎたいという気持ちが強かったんです。研究者が知るだけではなくて、正しい知識を地域に広めないと意味がないと、ひしひしと感じていました」
しかし、住民への普及啓発や、現場で一緒に手足を動かしての対策の機会は、研究機関ではなかなかありませんでした。
そんなとき、秋田県庁での募集を見つけたそうです。もともとはツキノワグマが原点で「愛着もひとしお」だったこともあり、応募を決意しました。
近藤さんは、今の仕事について「大変だけど楽しい」といいます。「市町村職員や住民との付き合いの中で、信頼してもらって相談してもらえるようになったり、対策がうまくいったり…小さな積み重ねを、積み重ねていける感じが楽しい」と、笑顔で話してくれました。

ただ、必ずしも北海道にとってマイナスというわけではないようです。
北海道の研究機関の「大好き」な先輩が、「秋田県ですごい体制を作れ」と激励してくれたことを心の支えにしてきたといいます。
今も北海道の研究者や自治体職員とも交流があり、ときどき情報交換をしているそうで、「クマの種類は違いますが、対応の勘所は共通しています。全国に仲間がいるのは心強い」と話してくれました。

近藤さんのような専門職員の存在は、これからのクマ対策のカギになります。しかし、クマ対策は一人だけの努力では前に進みません。
最前線に立つ、市町村の職員。その判断を支える、都道府県の職員。
ときには都道府県の枠も超えて交流することで、互いのいいところを、地域ごとに合った形で取り入れていく…。そうして各現場の教訓が、次第に国全体のクマ対策を動かしていくのかもしれません。
◇HBC北海道放送・幾島奈央
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