◆窓から見えるのはネオンサインのまたたき

海軍制服姿の藤中松雄

<藤中松雄の遺書>
◎最後の筆 そしてここに来ての第一筆
ブルー(女囚部屋の事)に来て最初に自分が行った事は窓部に進み寄り、以前ここに居た時、私を、三時頃になると窓部に引き寄せていた、可愛い子供の遊んで居たところを、無意識の中に見に行った事である。併し見えない。見えるのは夜外燈とネオンサインのまたたきばかり。可愛い彼等はもう安らかな寝りに就いて居るのだろうか。安眠妨害せぬ様、静かに閉めて今ここまで書いて来た。


ここから松雄は少し時間を溯り、死刑囚の棟を出る前から起きたことを書いている。

◆今夜は臭いぞ 今夜あれば自分達だろう

巣鴨版画集より

<藤中松雄の遺書>
〇移室の感想
今日夕食後、突然、空気が変に思われ、この事があるのを予想して直ちに身の廻り品を整理し、時間来るまで日記を記す。普通、点呼が済むと直ぐ、訪問が許されるのであるが、今夜は点呼も終り、時間はどんどん過ぎて行くが、訪問の許される傾向もなく、同室の森さんと益々変に思い、今夜は臭いぞ・・・と語り合う。そして今夜あれば自分達だろうとの見当はほぼついて居た。


松雄ら石垣島事件7人が自分の死刑が確定したことを知ったのは、3月28日火曜日だった。死刑の執行が金曜日と決まっていれば、3日後の31日金曜日を無事にやり過ごしたあと、では次の週かと、日増しに高まる緊張の日々を送っていたことになる。