日本人学校の生徒数が10%減少…気になる「安心安全」
Q一方で懸案もあります。去年は蘇州で日本人親子が切りつけられたり、深センでは日本人学校に通うお子さんが殺されてしまう悲しい事件も起きました。つい先日も蘇州でお母さんが被害に遭う事件がありましたが、これが日本人が中国に来ることをためらう一因になっているのではと思いますがどう考えていますか?
本間会長
私たちも中国の中央政府地方政府とお話をするときに、単に安心安全っていう話をしても皆さん「それは当然やるよ」で話が終わっちゃうので「いや、安心安全な環境がなければ優秀な日本人社員を招くことはできないし、そのご家族が来ていただけなければ、さらに有能な人材を中国に招くことはできないんですよ」というふうに背景も含めてご説明しております。
今年4月時点で中国大陸の日本人学校の生徒数は前年に比べ10%強減ってしまったんですね。もちろん子どもさんの入れ替わりはあるんですけれどもやっぱり今回は明らかに帯同を中止するとか、おじいちゃんおばあちゃんが「帰ってきなさい」というので帰っちゃうとか、そういう方が増えていると。それは私たちの会社の事例を見てもそう思うんですね。やはりぜひ安心安全な環境と、日本人学校の充実した教育環境の拡充というのも私たち商会も多少なりともお役に立ちたいなと思っているところです。
Q中国側は要望をちゃんと受け止めているんでしょうか?
本間会長
どこの国も子どもを大事にすると思うんですけれども、中国の方は本当に子どもを大事にする傾向があるので深センの事件は非常に多くの方が心を痛められているというのもまた事実なんですね。その中でいかに成果を上げていくかということで、私たち商会も外務副大臣や中国地方政府に対し具体的な警備強化を要望したり、また国会議員の皆さんには苦しい懐事情の中、日本人学校の警備費用の積み増しを昨年度、今年度と認めていただいたんですね。官民挙げて中国で暮らす日本人、日本企業に勤務する社員の安全確保に努力しているというのは知って頂ければと思います。
Qもう一つはビジネスマンの拘束事件ですよね。先日判決が出たばかりですがこれもまた中国への駐在をためらう一つの理由になっていると思うんですがこの点はどう考えますか?
本間会長
今回の判決で中国の法律に違反したという結論が出てしまったわけなんですけれどもやはり私たち日本企業の従業員にとって困惑するのは「何がしていいことで、何がしてはいけないことかが今ひとつわかりにくい」という問題があると思います。
この点をもう少し一般市民にわかるようにかみ砕いてご説明いただくように両国政府の皆さんにお願いしています。先週も東京でそういうお話をして、何とか前に転がりそうな感じになっているので皆さんに安心していただけるメッセージが出せればと思っています。
ロボット価格が半年の給与以下…雇用減少の背景に「IT化とロボット化」
Q在留邦人減少の背景には安全面の他に中国のビジネス環境の変化もあると思うんですね。企業によっては現地採用を増やし駐在員を減らすなどの変化もあると思うんですがこの点はどう考えていますか?
本間会長
実は中国の会社は今どこも雇用を減らしにかかっていると私は思うんですね。要因は急速なIT化とロボット化です。ロボット価格がこの4年で60%下がったと言われておりまして単純作業をするロボットの価格はもはや労働者の半年分の給料もしないっていうのが今の中国の現状なんですね。
ちょっと日本の人にわかりにくいと思うんですけれども中国の経営者はロボットをどんどん買って工場の人を少なくすると判断していると思いますね。そこはやはり日本より中国の方が進みが早いかなと。
私たちパナソニックグループもこの6年で社員さんだいぶ減っているんですね。また優秀な中国の方が出てきて育ってくれば仕事を渡して駐在員は帰るというのもそれはごくごくノーマルなことかなと思うのと、加工貿易の分野などは必ずしも日本企業が自分で資本を出してその仕事をしなくても中国の会社にお願いして我々は検査だけすればそれでいいっていうパターンのビジネスもたくさんありますので、そういうことが相まって在留邦人が10万人を切る状況になっていると思うんですね。

消費は低調も、AI分野は好調…価格競争には「少しずらして真正面から戦わない」
Q在中国日本企業8000社を対象にした中国日本商会のアンケートでは景気は「少し悪化の傾向」というまとめでしたが、最近の中国の景気はどうでしょうか?
本間会長
5%程度の成長が実現していると報道されております。ただ私たちが思うに中国の成長の軸は地域的にも業種的にも大きな動きがあると思うんですね。今回のアンケートを詳細に拝見してもやはり地域ごとにかなりのばらつきがあったり、業種も伸びている業種よくなっている業種もあれば悪くなっている業種もあるということで、その二つの軸がダイナミックに動いているのが今の中国の特徴かなと。
私どもパナソニックグループの経験で言わせていただければ、生成AIサーバーに使うような電子部品や生産設備。それを作るいろんな部品。そういう部門は本当に激しく伸びている。一方、家電や住宅設備は前年を維持するのがやっと。消費がやや低調でいくつか重点的な分野で大きな成長が見られるというのが特徴だと思います。日本企業も成長するセクターに自分の体を寄せていく努力が欠かせないんじゃないかと思いますね。
Q中国国内は値下げ競争が激しくデフレ傾向にあると言っていいと思いますが、これは厳しい戦いですか?
本間会長
「中国式内巻競争」っていうんですけれども本当に破壊的価格競争がいたるところで繰り広げられてしまうというのが中国の特徴だと思うんですね。
私たち日本企業、外国企業はそこに正面から挑みかかるよりは「少しずらす」ということが私は大事じゃないかなと思っておりまして、私たちの家電製品でもデザインで少しずらすとか、機能で少しずらすとか、どう真正面から戦わないか、それでいかに成長を確保するかっていうのがこの国で生き残るひとつのコツかなと思います。内巻競争のいいところもあるんですね。それは私たちが仕入れる原材料や素材が安く買えるっていうことなんですよ。やはり徹底してそういうものを活かす態度が必要だと思うしそのためには意思決定の現場をこっちに持ってこないと日本企業は厳しいんじゃないでしょうかというお話をよくさせていただいています。
Q米中対立も関税競争も激しくなっていますが影響はどうでしょうか?
本間会長
今回のアンケートを通じてはっきりしているのは国際関係の変化が自社事業に影響を与えているという回答は少ないですね。これはやはり第1次トランプ政権の経験で非常に多くの在中日本企業が中国で作ってアメリカに出すというビジネスを縮小しているというのは言えると思います。ただ中国のお客さんがアメリカ向けの商売をしていてそれが沈むということはやはりあるんじゃないでしょうかね。