■「診療報酬が安い」診察時間は5倍も、報酬の上乗せはなし

なぜコロナ後遺症の外来が増えないのか?2020年からコロナ後遺症の専門外来を設置し、これまでに4000人以上の患者を診察しているヒラハタクリニック平畑光一院長は、医師が積極的に後遺症患者を診療しようと思えない深刻な理由があると指摘する。それが「診療報酬の安さ」だ。
ヒラハタクリニック 平畑院長
「かなり慣れている私でも、後遺症患者1人に対し、15分程度は診察にかかってしまうことが多いです。15分かかっても、結局5分以内で終わるような血圧や糖尿病の治療よりも遥かに少ない診療報酬です。これでは、コロナ後遺症に取り組もうという医療機関が出てこないのは仕方がないところがあると感じています」
つまり“割に合わない”というのだ。

厚労省の調査によると、一般的な外来患者の場合、診察時間は、5分未満が27.5%、5分〜10分未満が41.3%だという。
一方で、症状が多岐にわたるコロナ後遺症は、患者の状態に応じて、一つ一つ対症療法が必要になる。医師の知識と経験に加えて、診療には時間が必要で、平畑院長でも風邪の診察と比べて3倍から5倍の時間を患者に費やしているという。それで報酬が風邪と同等なら、同じ時間で風邪の患者を5人診察したほうが報酬の面ではメリットが大きいわけだ。
では、コロナ後遺症の診療報酬を引き上げるわけにはいかないのだろうか。
新型コロナの感染症に対しては、通常診療に加えて報酬が上乗せされている。しかし、コロナ後遺症に報酬を上乗せするという議論は広がっていない。平畑院長は、コロナ後遺症が正しく認識されず、過小評価されていることが背景にあると指摘する。
ヒラハタクリニック 平畑院長
「国がコロナ後遺症を“大事な疾患”と認められれば、診療報酬は上がります。しかし、後遺症の方々は、倦怠感などから動けない状態の方が多いので、国などに訴えかける力があまりないのが現状です。訴えが届かないと、今までなかった病気は、風邪と同じような扱いになるので、低い診療報酬に抑えられてしまうわけです」

後遺症難民になることは、初期の段階で適切な治療が受けられず、後遺症を悪化させるだけではない。症状以外にも深刻なダメージがあると平畑院長は警鐘を鳴らす。