狙いは「国の分断」「政治の混乱」か 一貫性がなく、分かりにくい影響工作

では、外国勢力による介入があった場合、彼らの狙いは何なのか。

前出の髙森氏は「相手国の分断を作り、政府の意思決定に影響を与えることなのでは」と話す。

また、情報社会に詳しい中央大学特任准教授の田代光輝氏も「政治の混乱」だと指摘する。

海外の事例ではそのほとんどがロシアによる関与が疑われている。「何か主張を通すわけでも、ロシアの傀儡を作るということではなくて、ただただ混乱をさせて国力を低下させれば良いという意図はすごく見えてくる」と田代氏は話す。

確かに、明らかに親ロシア的主張を繰り返している投稿がバズっているのであれば“操作された”と気付くことが出来る可能性がある。しかし、実態はそうではないことも、この問題を複雑化させている。
かつて政治系の切り抜きショート動画をアップして人気を博したYouTubeチャンネルに、そういった特徴があったという。(※今は削除済み)

田代氏によると、このチャンネルは元々1つの動画が約300回再生程度のゲーム実況チャンネルだったが、去年7月の都知事選の時期に、突如石丸伸二氏を支援する内容の切り抜きショート動画をアップし始め、動画再生数が10万回ほどの人気のチャンネルになったという。

その後、
(1)2024年9月の自民党総裁選では高市早苗氏、
(2)2024年10月の衆議院選挙では国民民主党、
(3)2024年11月の兵庫県知事選では斎藤元彦氏、
(4)2025年7月の参議院選挙では参政党
を応援する内容の動画をアップし人気を維持し続けた。また、ライバル候補のネガティブキャンペーンも展開していた。

政治系切り抜きショート動画自体はよく見かけるものだが、田代氏によると、このチャンネルは投稿から短時間という不自然な形で再生数を伸ばしていたそうだ。
見て分かるように、投稿主の発信内容に一貫性は全くなく、ただ、時の政治家を応援することにより再生数を稼ぐという広告収入目当ての意図が垣間見える。

田代氏「いわゆるプチインフルエンサーみたいな方は、今の日本人の不安に寄り添うような主張をし、それがおすすめに表示されバズる」
投稿主にその気がなくても、知らぬ間に『国の分断』に利用されている可能性があるのだ。

情報操作“前提”の社会へ 個人が「気をつけるというレベルを超えている」

専門家への取材を通して分かった問題点は、情報の発信者側(投稿主)は自分の投稿が利用されていることに気づきにくく、情報を受け取る側の人間も「その投稿は反響がある」と錯覚して見ているということだ。さらに厄介なのは、人間は「正しい情報」を求めるのではなく、「自分を肯定してくれる情報」を取りにいくということだ。

では、情報操作の影響を受けないためにはどうしたら良いのか。
「SNSを見ないようにしましょう」というのは、デジタルネイティブの世代がこれから増えていく中で到底無理な話である。
田代氏は「ネットリテラシー、つまり受け取る側が能力を高めて嘘に騙されないようにしましょうというのが今の流れだが、それも無理だと思っている。(我々1人1人が)気をつけるというレベルを超えている」と話す。

『デマには気をつけましょう』という時代から、『情報操作やデマを前提とした社会』に移りつつあるのかもしれない。

選挙は民主主義の根幹だ。選挙介入は、個人の意思決定に影響を与え、国家レベルで甚大な悪影響を及ぼす。決して大げさな表現ではなく、民主主義の崩壊を招く可能性がある問題だ。
参院選中には、Xがロシアによる介入が疑われたアカウントを凍結したが、こうしたプラットフォーム事業者による規制もいたちごっこにしかならず、何より表現の自由の侵害や言論統制となる可能性もある。

残念ながら、現時点ではこの問題を根治するような効果的な対策は見当たらない。
平デジタル大臣は会見で「今後政府の中でもしっかり協議をして、明確にここが司令塔として対応するといった部署なり、ユニットを作る必要がある」との考えを示した。政府に限らず、多くの政治家も危機感を示している。

『情報操作やデマを前提とした社会』が定着しないためにも、国による対策は急務だ。
我々報道機関も他人事ではなく、情報の発信者としてさらに強い責任感をもって仕事に取り組む必要がある。

TBSテレビ 報道局政治部
堀宏太朗