――避難を呼び掛けていくことは大事なことだけど、地域によって差があることをどう伝えたらいいか、歯がゆいところもあります。
稲垣:
熱中症リスクなども踏まえた具体的な情報伝達が必要です。「涼しい場所に行きましょう」ということも大事かなと。持参するものなどをちゃんと言ってあげないといけない。熱中症のリスクが高い時は冷たい飲み物を持って逃げて、など具体的に、行政も報道も、アナウンスをした方がいいかもしれない。
それから「屋内避難」ということを津波注意報の時は呼びかける方がいい。 “海岸から離れたスーパーに行って” とか。実際に浦添西海岸の大型商業施設は通常通り朝から営業していた。あの建物は6階まであります。高いところに避難、という意味ではそういうことです。(RBC iラジオ『アップ!! 』2025年8月13日放送より)
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【編集後記】
津波「注意報」での高台避難は決して間違いではありません。
稲垣さんによると、東日本大震災2日前、津波「注意報」が発表された岩手県大槌町で、多くの住民が道路から海の方を眺めていたなかで「念のため」と、寝たきりの父親を車いすに乗せて高台に避難した人がいました。
この男性は2日後に大震災の大津波に見舞われますが、直前に避難を体験したことが迅速な高台避難に生かされ、親子とも津波から逃げ切ったことを稲垣さんに語ったそうです。こうした教訓も、避難の経験の重要性を示唆しています。
一方で熱中症も、特に高齢者などにとっては命にかかわるリスクです。熱中症対策と津波避難を両立させる具体的な情報伝達が必要だということが、この日の経験から見えてきたと言えそうです。
◎稲垣暁(いながき・さとる)
社会福祉士・防災士・RBC iラジオ『アップ!! 』コメンテーター。神戸市灘区出身。阪神・淡路大震災で被災後、新聞社勤務の傍らまちと遊びの再生活動に携わる。震災10年を機に妻の故郷沖縄に移り、社会福祉士として県内地域や県外被災地での寄り添い活動を続ける。学生や若者を連れて岩手県大槌町の被災地に14年通い続け、交流や学びを沖縄の地域や学校での防災実践に生かすほか、被災生活で大いに機能した神戸の野外活動文化を防災キャンプに体系付ける。災害支援の活動理念は「細く・長く・しつこく・やさしく」。