栁田は記録を目指すしかなかった

男子100mは世界陸上代表選考上、極めて重要な大会になった。

9秒96(追い風0.5m)と昨年のうちに標準記録(10秒00)を突破済みのサニブラウン・アブデル・ハキーム(26、東レ)が、ケガの影響で日本選手権は予選落ち。日本選手権終了時に代表内定者が出なかった。その結果代表選考の最上位項目は、日本選手権入賞者の標準記録突破になった。2番目の項目は日本選手権入賞者の、Road to Tokyo 2025世界ランキングでの出場権獲得者になる。

7月末のインターハイで清水空跳(16、星稜高2年)が、10秒00(追い風1.7m)と標準記録に達したが、清水は日本選手権では準決勝止まりで1、2番目の項目には該当しない。

しかし8月3日の富士北麓ワールドトライアルでは桐生祥秀(29、日本生命)が9秒99(追い風1.5m)、守祐陽(21、大東大4年)が10秒00(追い風1.3m)と、日本選手権入賞者が標準記録をクリアした。その時点で桐生は代表入りが確定し、守は他の日本選手権上位選手の結果次第、という状況になった。日本選手権入賞者で項目1、2を満たした選手が他に現れなければ、標準記録突破者で記録最上位のサニブラウンが代表入りする。

その状況で迎えたオールスターナイト陸上は、日本選手権入賞者5人が揃った。2位の大上直起(25、青森県庁)、3位の関口裕太(20、早大3年)、5位タイの小池祐貴(30、住友電工)と多田修平(29、住友電工)、そして8位の木梨嘉紀(23、筑波大院)。この5人の誰かが標準記録を破れば、選考の優先度でサニブラウンを上回る。

それに対して栁田は、日本選手権は予選でフライングをして失格していた。他の入賞者が1、2番目の項目に該当する戦績を残せば、代表入りすることはできないが、オールスターナイト陸上の栁田は強かった。得意のスタートから序盤でリードを奪うと、後半も危なげなく逃げ切った。優勝記録は10秒11(追い風0.5m)で2位に0.10秒差をつけた。

栁田が代表入りするには標準記録を切るだけでなく、サニブラウンの9秒96に並ぶ必要がある。選考要項ではRoad to Tokyo 2025の順位(標準記録突破者は記録)で並んだ場合は、今季の主要大会の成績が判断材料になり、栁田がサニブラウンを上回る。

栁田は日本選手権で優勝しても、記録を狙うことは同じだった、と引きずっていない。

「結局、桐生さんも守君も標準記録を切ったので、僕が日本選手権で勝っていたとしても、もう1人誰か標準記録を切ったら僕も切るしかなかった。日本選手権はもう忘れて、もう標準切るだけじゃダメですけど、記録を出すことに集中しています。それに日本記録(9秒95)は、世界陸上に出られる、出られないに関わらず、今シーズン目指して行く記録です」

Athlete Night Games in FUKUI(100mは8月16日)は東洋大の先輩である桐生が、日本人で初めて9秒台(9秒98)を出した9.98スタジアムで開催される。栁田は先輩に続くつもりだ。