世界はつながっている できることから行動を
編集部 中満さんから見て、日本の若者たちが海外に目を向けているという感じはありますか。
中満 分極化しているかなという気がします。人によってはものすごく興味がある。今はSNSがあったり、ネット上でいろいろな人とつながることも、私たちの時代と比べると本当に簡単になりましたよね。そういった人たちと世界中でつながっている人もいる一方、自分たちの身近な問題点に忙殺されてというか、なかなか海外のことには目が行かない人もいる。
特に今、気になっているのは、海外とつながるよりも、いわゆる全ての国が自国ファースト、アメリカで言うと「アメリカファースト」で、日本でも日本人ファーストみたいなことを、排外主義と直結する形で、声高に叫ぶ方が増えてきたような気がします。誤解のないように申し上げれば、どの国も自国の国益を第一に考えて政治や外交を行うのは当然のこと。ただ、それイコール排外主義ではありません。もっと言えば、第二次世界大戦の背景要因はまさに各国が排外主義・保護主義に向かったことがありました。

実は、日本のことと世界のことはつながっている。全ての人が自分のことしか考えなくなると、そこで少しずつ平和が壊されていく。全部つながっていますので、そういうことも含めていろいろな人の声を聞く、彼らとつながって一緒に考えていくというのが、今のような時代だからこそ重要だと私は思っています。日本の国益を考えればこそ、どういった分野でどのような国際協力が重要なのかを真剣に考える必要がある。海外ともつながりやすいし、海外の情報なども入手しやすい時代になったので、さまざまなツールをうまく使いながら、ぜひ考えてほしいなと思います。
そして、必ずしも世界的な規模でいろいろな行動をしなければいけないわけではなくて、自分の身の回りにあるさまざまな問題点、いろいろな差別、格差、不平等、不正義、そういったことを見たら、それを正していくために自分が何をしたらいいのか。これが実は、積もり積もって世界平和にもつながっていると私は日ごろから感じています。自分の一番興味のあること、自分にできること、そこからいろいろ考えて行動してほしいなと思っています。
編集部 最後にもう一つだけ。もし中満さんのように国連で軍縮などのお仕事をしたいなと志す若い人がいたら、どんなふうにアドバイスしますか。
中満 自分のやりたいことを追求していくというのは、実はそんなに苦しくないことなのです。好きなことを追求していくのが、人間にとって一番充実している。苦しいなと思って無理な苦労をするのではなく、私の場合も、やりたいこと、好きなことを追求していたら何となくこういうふうになったという感じです。
ただ、その過程において、いろいろなことを吸収する、いろいろな人と話をして、いろいろなところへ行って、さまざまな経験をたくさん積んでいくことが、多分若い時代の特権ですよね。そういったことをぜひ積み重ねて頑張ってほしいなと思います。
(注)国連事務次長…DGACM(国連事務局の総会・会議管理局)作成のリストによると、今年5月現在、ニューヨークの国連本部には、事務次長またはそれと同等の地位にある職員が34名在籍。
〈中満 泉(なかみつ・いずみ)氏の略歴〉
1963年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。米国ジョージタウン大学大学院修士課程修了(国際関係論)。1989年UNHCRに入職。UNHCRには旧ユーゴスラビア、トルコ、イラク北部、ジュネーブ本部などで勤務しながら10年近く在籍。その後、国連平和維持局(PKO)政策・評価・訓練部長およびアジア・中東部長、国連開発計画(UNDP)危機対応局長などを経て2017年5月より国連事務次長兼軍縮担当上級代表(現職)。
2018年米フォーチュン誌の「世界で最も偉大なリーダー50人」に選出される。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。