頭で考えるだけではダメ 心で感じる

編集部 国連職員として長年のキャリアをお持ちですが、平和の大切さをキャリアの中で一番強く感じた経験があれば教えていただけますか。

中満 いつも感じています。「ここは」というふうに言えないところがあって、現場にいたときも、直接的に紛争が人間、市民に与えるものすごく大きな惨害、悲惨さを経験しました。

私が経験したというよりも、そういったことを経験している人たちを目の前にして、彼らを支援していくことの難しさを体験したり、今も、特に軍縮ということで、どういう種類の兵器がどういう被害を人間に与えるのか、まさに核兵器の問題が一番大きいけれども、いろいろな方と触れ合うというか、彼らの受けた、恐らく口にするのもものすごくつらいような体験談を被爆者の方々に聞きました。

そういったものを直接、頭で考えるだけではダメで、心で感じていく、それをどうやって次の仕事につなげていくかという、ある意味ではインスピレーションであったり、動機づけであったり、そういったことを感じながら日々仕事をしています。

PKO局時代、コンゴ民主共和国東部の避難民キャンプにて

もちろん、若かったこともありますし、現場での経験は直接的に残っているものはすごく大きいけれども、今も毎日、ガザの状況もそうですし、本当にあり得ないようなこと、あってはならないことが起きています。私が仕事を始めたときには、こういう悲惨なことが、しかも処罰されないような形で長く続いているという状況が、今の21世紀に実際に出てくるとは思っていませんでしたが、そういったことを感じながら毎日仕事をしています。

仕事で一番大事にすること…100%ではなくても誠実でありたい

編集部 世界を見渡すと、各国とか各勢力、いろいろな思惑がひしめいている中、平和のための仕事は、多分、想像を絶するようなご苦労があるのではないかと思います。そんな中で中満さんは、何が一番大事なことだと考えて日々のお仕事をされているのでしょうか。

中満 仕事の上で、できないこともいっぱいあるのです。むしろできないことのほうが多い。実際、今、国連が十分に機能しているかというと、さまざまな側面できちっと機能できていない状況があります。最も難しいのは安保理ですが、安保理だけでなく、私たち国連の事務局としても、本来であればもっとやりたいと思うような、もっとインパクトを与えたいと思うようなことがありながらも、なかなかそれが可能にならないという状況もある。私たちがパーフェクトな形で仕事ができているかというと、全くそうではないという意味でのフラストレーションもあります。

そういう状況の中で、私が一番心がけているのは、必ずしも100%ではないし、十分ではないけれども、必ず誠実でありたいと思っています。できないことはできなくて本当に申しわけないという思いを心に抱きながら、全ての人の意見を、考えていることを、誠意を込めてきちっと聞く。その中で、ある意味、もがきながら、どういう解決方法があるのだろうか、どのようにステップを踏んでいけば何か成果が出せるのだろうかということを真剣に考える。誠実に真剣に日々取り組んでいくというのが一番重要なことではないかと思います。

いろいろなところでいろいろな政治家を見ていて、やはり誠実な人とそうでない人は違うかなと思います。私は政治家では全くないけれども、国連の職員として、なかなかできないという自分なりのフラストレーションも心に抱きながら、なおかつ、一生懸命誠実にやっていくしかないかなと思っています。