沈黙を強いられた女性が尊厳を取り戻す

神戸:集落を守るために、犠牲になる。お父さんが開拓団員だった遺族会会長の藤井宏之さんは戦後生まれ。自分は当時を知らないわけですが、この女性たちの尊厳を取り戻したい。私は男性の立場でその姿を見て、「立派な方だなあ」と思いました。

女性を支えた戦後生まれの遺族会長=©テレビ朝日

松原:藤井さんは元々製材業をやっておられて、保守系の町議会議員なんですが、イデオロギーは全く関係なく自然な気持ちで受け止めて、「どうしたらいいんだろう」と考え、何年にもわたって事実を記録して、女性たちに謝罪までされたのです。親の世代がやってきたことに対して、次の世代としてきちんと受け止めて、向き合うことができるんだ、ということを彼は示したのだと思います。

神戸:それまで語れなかった女性は、「語らせてもらえなかった」面もあったのかなと思いました。「村の恥でもあり、言ってほしくない」。男たちがしてしまったことの罪深さを分かっているからこそ、女性たちに沈黙を強いた面があるのかなとも思いました。

松原:言うこと自体も恥、と思われてしまう意識もあるし、開拓団の幹部はやはり後ろめたい気持ちもありますから、村の中で「これには触れてはいけない」「言わせない」という雰囲気があったので、上からの抑圧はとても大きかった。その中で打ち破って話されたのは相当な勇気があったと思います。

実名で語り始めた佐藤ハルエさん=©テレビ朝日

神戸:家父長制は戦後も残っていて、沈黙を強いられた女性たちが「尊厳を回復する」過程が描かれ、映画の後半にはかなりドラマティックな展開が待っていました。あと、若いお孫さんたちが動き始めたあたりは、すごくいい。これが全て事実なのはすごいなあ、と思いました。

松原:私も全然予想もしなくて。最初から映画にすると考えていたわけではなくて、取材をしていたらどんどんいろいろな変化が起きてきて、「こんなことって起きるんだな」と私も見せてもらいました。

神戸:テレビ朝日さん、すごいですね。放送局の系列を越えて、「目指すものがある」「気持ちは同じだなあ」と思う人のことを、僕は勝手に同志だと思っています。

松原:神戸さんにそうおっしゃっていただいて、うれしいです。