ソ連兵に差し出された15人の娘

神戸:80年前の出来事です。国策のもとに実施された「満蒙開拓」で、日本各地から開拓団が満州(現・中国東北部)に向かいました。気づいたら、日本の関東軍は逃げてしまっていなかった。自分たちしかいない状況で、日ソ中立条約を破棄してソ連軍が満州に攻め入ってきます。日本が今まで抑圧していた満州人も立ち上がります。今まで君臨していた日本人は、立場が逆転してしまうわけです。自分たちの生命を守るために、岐阜県白川町黒川の開拓団(約650人)は、18~22歳までの未婚の女性15人をソ連軍に差し出すことによって守ってもらうことにしました。「性接待」と言いますが、これはまさに性暴力です。村の人々から「頼む、行ってくれ」と言われて行った女性たちが、映画の中で実名も顔も出して自らの体験を話す。こんなにしっかりと話される方々がちゃんといたことに、感動しました。
松原:よくお話してくださったと思います。性暴力を強いられたわけで、言葉にすることも自分を傷つけることになるし、なるべくなら隠したいと思うのが普通だと思うんですが、表に出して勇気を持って覚悟を持ってお話された。その気持ちを分からなくてはいけないという気にさせる女性たちです。
神戸:日本にやっと戻ってきた後も、「あの人はお嫁に行けない体になっている」と誹謗中傷を受けていく…。村を離れなければいけない女性もいた。ずっと抱えてきたものを「きちんと語り継がないといけない」と覚悟を決めたおばあちゃんたちの中には、どこか吹っ切れたような表情をされていらっしゃる方もいました。一方、ずっとしゃべれないでいる人たちも出てきます。映画の中では非常に印象的でした。

松原:顔を出したり実名でしゃべったりする人は、そんなにいるわけではないです。インタビューで顔も出さなかったし、実名も出せなかった方が、だんだん社会に理解されることによって、人間性を取り戻していくという過程がありました。「尊厳の回復」って、よく小説とかドラマでは語られても実際にはなかなか難しいのですが、「理解してくれる人がいることはものすごく大きいんだ」と彼女たちは示してくれたと思います。