韓国、そして台湾に残された交渉の課題

韓国も日本と同様、閣僚をワシントンに送り込んで交渉を続けています。6月6月に就任した韓国の李在明大統領はまだ、トランプ大統領と会談を行っていません。韓国にとって最大の輸出商品は自動車で、8月1日から予定される25%の関税を日本同様に15%に下げられるかどうかが目安になるでしょう。一方で、韓国の政権が北朝鮮にどのような姿勢で向き合うか、米韓同盟をどのように位置付けるかも、関税交渉妥結に向けた大きな要素となるはずです。

もっと厄介なのが台湾です。台湾は行政院副院長(副首相に相当)をワシントンへ派遣し、アメリカ側と4回目の交渉に当たっています。トランプ大統領からは「32%にする」と通告された関税を、どこまで引き下げられるかが焦点です。

台湾はまだ妥結に至っていませんが、冒頭で触れたリコール投票、そして頼清徳政権側の目論見が失敗したことと、この交渉は関係してくると思います。対象となった24人の議員全員のリコール不成立は、台湾の政権にとって大打撃です。一方、中国側は台湾に対して、ハード、ソフトの両面で様々な攻勢を強めていくのではないでしょうか。弱り目の頼清徳政権にとって、これまで以上に頼りにする相手は、やはりアメリカということになるでしょう。

ディールと安全保障、複雑に絡み合う要素

トランプ政権も台湾政治の混乱を注視し、それを「取引(ディール)」の材料にする可能性もあるでしょう。頼清徳総統は7月23日、関税に関する対米交渉について、「互いにメリットがあり、また互いを補完し合えること。これが交渉の原則だ」と語っています。

しかし、トランプ政権は関税交渉において、台湾サイドにさらなる譲歩を突き付けていくようにも思えます。関税率そのものだけではなく、アメリカからの農産品のさらなる市場開放、またアメリカ製の武器の購入とリンクする可能性もあります。

このように考えると、様々な事象が互いに結びついていくことが分かります。安全保障という要素が、貿易交渉に強く影響を与えているのです。交渉によって関税は当初提示された課税率から引き下げられるとはいえ、どの国も対米輸出関税はこれまでより大幅に引き上げられることになります。

タイムリミットの8月1日が迫っています。北京のマーケットのように、交渉や駆け引きによって得したと感じるのか、それとも交渉の甲斐なく損をしたと実感してしまうのか。まだ妥結していない韓国や台湾がしたたかに振る舞えるのか、様々な要素と絡むだけに、そのような視点からも注目していきたいと思います。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める