北京のマーケットに見る「交渉」と「駆け引き」

先週、大きなニュースとなったトランプ関税ですが、日本とアメリカ両政府は相互関税の税率を25%から15%に引き下げることで合意しました。8月1日の発動予定を前に決着しましたが、その評価は様々です。

このような「交渉ごと」を考えると、私は北京に駐在していた頃のことを思い出します。北京の中心部には、不思議なマーケットがありました。そこでは世界的なブランド品が売られていたのですが、大別して2種類ありました。一つは偽ブランド、いわゆるコピー商品。もう一つは、海外の有名メーカーが中国国内で製造した一流品そのもの、あるいは製品検査で小さなキズが見つかるなどした不合格品を不正に横流ししたものです。高級時計、衣服、バッグ、ゴルフクラブなど、何でも揃っていました。

値段は値札があるわけではなく、店番をしている店員との交渉、駆け引きで決まります。安く手に入れたつもりでも、同じものを中国人や他の国の人がもっと安く手に入れている、ということが日常茶飯事でした。私が満足して買って勤め先に戻り、現地の中国人スタッフに交渉の話をすると、「なんでそんな高い値段で買ったんだ。私ならその半額で手に入れていた」と呆れられたものです。日本人は概して、このような駆け引きが得意ではないかもしれません。

各国の関税交渉と安全保障の要素

話をトランプ関税に戻しましょう。日本と同様にアメリカとの関税交渉を終えたアジアの国々を見てみると、ベトナムは当初の46%から20%に、インドネシアは32%から19%にそれぞれ引き下げられました。そして、フィリピンは7月22日、マルコス大統領がワシントンを訪問した後、20%の予定だった関税がインドネシアと同じく19%で決着しました。下げ幅や最終的な関税率は各国で異なります。

今後、注目したいのはどこか。貿易大国といえば中国ですが、米中双方で現在交渉中であり、うまくまとまらなければ、アメリカは中国に54%、中国はアメリカに34%という高い関税を発動させることになります。これは世界の経済を大きく揺るがす事態となるでしょう。そして、中国と同じように、日本から近く、まだ交渉がまとまっていないのが韓国と台湾です。

アメリカとフィリピンの首脳会談では、両国の同盟関係を確認し、安全保障協力をさらに強化することを約束しました。具体的には、アメリカ軍がフィリピンの基地の使用を拡大していくことです。これは南シナ海で海洋軍事力を強める中国を牽制する狙いですが、安全保障問題がトランプ関税の交渉において重要な要素になっているのは、韓国、そして台湾も同様です。