諦めない気持ちと「絶対ラジコはラジオの未来に必要」の信念

 最後に、困難を乗り越える秘訣はありますか?

青木 人に言えるような解決法があるわけではないですが、あえて言うなら、我々が行きたいゴール決めて、そこにたどり着くまでは絶対諦めない。それしかないかなと思います。そういう人にしか困難は乗り越えられないはずですから。

例えば、先ほどお話しした最初の権利許諾の作業には、教科書がない。ルールもない。なかったルールを音楽や番組出演者、天気予報、交通情報、野球、競馬、競艇まであらゆるところと根気よく相談し整えて、配信できるまでにこぎつけました。尋常ではなかったです。

もう1回やれと言われたら無理ですね。バイタリティがなくなったわけではなく、あの時のあの気持ちはあの時にしか持てない。あの時は絶対ラジコはラジオの未来に必要なんだという信念みたいなものが、私だけでなくチームにありました。そういう気持ちがやっぱり各権利者のみなさんにも伝わったかもしれません。

インタビュー後記…人が何かに取り組むうえで学びの多い話

メディアにおけるイノベーションは様々な分野でいくつも頓挫してきた。radikoが幸運だったのは香取・三浦両氏というビジョナリーがいたこと、強い危機感を業界で共有できたこと、そして青木氏のような胆力ある実務者がいたことだろう。メディア業界に限らずビジネス全般の分野で、それだけでなく人が何かに取り組むうえで、学びの多いお話が聞けたと思う。

使ったことのない方はこの機に、スマホでラジコを聴いてみてほしい。音声コンテンツとはこんなに面白いものかと再発見できると思う。

〈青木 貴博(あおき・たかひろ)氏の略歴〉
1970年 東京都生まれ
1993年 株式会社電通に入社 営業を経験し、その後ラジオ領域の業務に従事
2009年 IPサイマルラジオ協議会発足と同時に運用担当(事務局)
2010年 株式会社radikoの設立と同時に出向
2017年6月同社代表取締役社長就任
2025年6月19日より取締役会長(現職)

〈聞き手の略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。