
パプアニューギニアのシンクタンク ポール・ベイカー氏
「ガルフという場所でイフ経済特区を作る計画がありますが、飛行場と軍事施設が含まれていて奇妙なのです」

プロモーションビデオによると、工業団地や住宅、教育機関などを備えた大規模な近未来的港湾都市をつくるプロジェクトで、パプアニューギニア政府が推進している。現在、各国に投資を呼び掛けているが、中国からの投資を呼び込みたいのかプロモーションビデオには中国語の字幕がついている。

既に一部の中国企業が覚書を交わしたが、問題視されているのがパプアニューギニア軍の海軍基地建設だ。経済特区が計画されている場所は、オーストラリアの対岸で500キロほどしか離れていない。

この場所に中国が投資する軍事施設ができる可能性があることにオーストラリアメディアは強く反発している。プロジェクトの担当者は「将来中国の影響力が高まれば中国が基地を手に入れるかもしれない」と語ったとも伝えている。
こうした懸念が高まる理由は、この地の悲しい歴史にある。首都から飛行機で1時間半ほど離れた場所にあるラバウルはかつて日本がアメリカ・オーストラリアと凄惨な闘いを繰り広げた場所だ。

79年前、前線を視察中に戦死した連合艦隊司令長官・山本五十六が「最後の夜」を過ごしたという地下壕も残されていた。

第二次世界大戦中、日本はここラバウルをはじめ太平洋の各地に勢力を広げた。アメリカとオーストラリアを結ぶ海上補給路を遮断することが狙いだった。かつて旧日本軍にとって戦略的要衝だった地域。そこはアメリカと対立を深める現代の中国にとっても、軍事的に重要な場所となりつつある。
■ソロモン諸島が中国と安全保障協定締結 その思惑は

パプアニューギニアの隣にあるソロモン諸島。ここをめぐって4月、アメリカを強く刺激する出来事が起きた。
中国外務省・汪文斌報道官(4月19日)
「ソロモン諸島のマネレ外相と両政府間の安全保障協力に関する協定に正式に調印しました」

具体的内容は明らかにされていないが「ソロモン諸島が中国に軍や警察の派遣を要請できる」ことなどが盛り込まれていると言われている。軍事施設の建設につながるのではないかという憶測が広がった。
そもそも島しょ国が安全保障を他国に頼る目的は、治安維持の側面が大きい。ソロモン諸島など多くは自国の軍を持っておらず、紛争が起きればオーストラリアなどに軍の派遣を依頼してきた。
いわば‟欧米の勢力圏‟とされたこの地域が、中国の進出を受け入れるようになった背景には何があるのか。太平洋島しょ地域を研究する東海大学の黒崎岳大准教授は、島しょ国側の思いをこう話す。

東海大学黒崎岳大准教授
「(オーストラリアなどの)上から目線というのでしょうか。どちらかというと面倒見てやってるという押し付けられている印象すら持っているのに対して、必ずしも良い感情を持っていない。そういったときにできれば多くの違う形のアクター(関係者)が欲しいと考えてきている」
島しょ国側は、時に内政にまで干渉してくるオーストラリアなどとは別の選択肢を持ちたいと考えていて、中国と思惑が一致したという。
ーー島しょ諸国から中南米への“海のシルクロード”を中国は頭の中に思い描いている?
東海大学黒崎岳大准教授
「もしかすると、大きな枠組みの中で中国は太平洋の島しょ地域との関係強化というのを進めているのではないか」
この20年かけて経済的な結びつきを強めた中国が、安全保障の分野にまで手を伸ばし始める。それを意識し始めたアメリカが動き出した。