■「感情的になったら良い成績は残せない」死去9日前の村田兆治さんからの電話

4度目の訪問の翌日(11月2日)午前10時30分。私は警視庁担当の記者として、霞が関の記者クラブで午前11時半からのニュースに向けて電話取材をしていた。すると、知らない番号から携帯に着信があった。私は取材をしていたため、出ることができなかったが、15分後にその番号に折り返した。
「(もしもし)はい」「(TBSの樋口ですが)あー村田です」とても穏やかな声だった。まさか、こんなに早く返事をもらえるとは思わず驚いた。
「さっき家に帰ってきて手紙読んだよ」「私は人を殴ったこともない。嘘は言わないよ」「有難いことに友人たちもそんなこと(暴行)はしないと言ってくれている」「事件当時は、気が付いたらまわりに10人くらいの警備員がいて、私を認めさせようとしてきた。10人で言われたら認めたくなるよ」
多くの警備員が周りを取り囲み、その後警察官に逮捕されたという。さらに、私が大学時代に野球部員だったことを知った村田さんは、話を野球に置き換えて話し続けた。
「野球をやっていたということだから分かると思うけど、感情的になったらいい成績は残せないよ」「私もこういう性格で正義感を大切にしてきたんだよ」「23年間ロッテで野球をやり、労働組合で課題にも取り組んできた」「野球は情熱的になれて、決断力も身について、人材育成の場所としていいんだよ」電話口からも野球への愛が伝わってきた。そして、次に出てきたのは、背中を見せてきた子どもたちへの謝罪の言葉。
「触ったのが暴力だというのは、見解の違い」「子どもたちに希望をもって勇気を、と言ってきた立場なので、逮捕という形になって、子どもたちに迷惑をかけた。申し訳ないよ」「樋口さんは、社会部にいるということだから真相を明らかにできると思う。色々話せるときになったら必ず連絡するから。信用してほしい」
■野球を愛した村田兆治さん

8分間の電話だった。野球という共通点があったこともあり、事件について心を開いて話してくれたと思う。村田さんは、逮捕当日も、北海道で行われる野球のイベントに向かう途中だったという。まさしく生涯を野球に注いだ人生だったのではないか。出火の原因はまだわからないが、これからも子どもたち、野球界のために…という想いがあった中で、今回の死去はとても残念でならない。たった1度の8分間の電話だけで、文字として書き残すことも迷ったが、村田さんの想いを聞いた1人として、記事に残すことにした。