9月開催の東京2025世界陸上の最重要選考競技会である日本選手権が、7月4~6日に東京・国立競技場で行われる。女子中・長距離のエース、田中希実(25、New Balance)は1500mの6連勝、5000mの4連勝に挑む。例年以上に日本選手権を“山場”と位置付け、“存在感”を見せるつもりだ。両種目とも田中の優勝の可能性が高いが、5000mでは前日本記録保持者の廣中璃梨佳(24、JP日本郵政グループ)も、14分台の優勝争いに意欲を見せている。パリ五輪代表だった山本有真(25、積水化学)も、ラスト勝負に持ち込めれば可能性がある。父親でもある田中健智コーチへの取材から、田中が今年の日本選手権をどう走ろうとしているかが見えてきた。

例年以上に“世界”を走り続けている田中

田中希実が例年以上に世界各地を転戦、連戦している。14年の日本選手権までの試合数は海外10レース、国内4レースだった。それが今季は海外だけで15レース、国内2レース(ペースメーカーを除く)に増えている。

だが、室内シーズンこそ3000mで8分33秒52、5000mで14分51秒26とショートトラックのアジア記録で走ったが、屋外のシーズンベストは1500mが4分05秒08、5000mは15分06秒78にとどまっている。昨年の日本選手権前は14分47秒69と4分02秒98。順位的にも世界トップ選手たちと常に戦っているとはいえ、グランドスラム・トラック(今季新設された大会で1試合で3000mと5000mの2レースを走る。当初は4大会の予定だったが3大会に)では7~8位、ダイヤモンドリーグでは11~14位と、ぱっとしない成績が続いている。田中健智コーチは、今季の状態を次のように話した。

「2月のケニア合宿を初めて、ケニアのメニュー100%で行いました。直後の練習をボストンのNew Balanceチームと一緒に行った結果、良い形でボストンの練習を消化できてインドアの結果につながりました。しかし屋外では(ペースメーカーの付かないグランドスラム・トラックなど)勝負が優先されるレースが多く、自分のレースができない、やれることができないレースが続きました。本人が自分の力を過小評価してしまって、壁にぶつかった感じです」

その状況を打破するためにも、日本選手権を「通過点ではなく“山場”と位置付けている」という。

「世界をより近く、肌で感じたことはいいのですが、打ちのめされてしまいました。そこで日本選手権を世界への通過点として走るのでなく、日本選手権を超えて初めて世界が見える、と考えるようにしました。原点に戻って、日本で地固めをする」

そのための具体的なレース展開は、日本選手権の直前になって決めていく。田中の状態次第ではハイペースに持ち込んで記録を狙うかもしれない。あるいは残り1000mや残り1周のスパートで、2位以下に大差を付けようとするかもしれない。いずれにしても「こういうことをやってみよう」と考えたレースをして、改めて存在感を見せるつもりだ。