描きたかった「ハイヒールの痛みを知る」男性像

具体的な設定を考える中で、「女の子はファッションが苦手な自己肯定感が低い子、男の子はファッションが得意な子がいい」とのアドバイスを受け、柳井さんが気にかけた「男の子」の設定。「女の子に上から目線で服装などをアドバイスしてくる男性は好きではないので、描きたくありませんでした。ではどういう設定なら許せるのかな? と思って考えたのが、光でした」
「どうしたらいいのか考えて、『ハイヒールの痛みを知っている男』であれば許せる、となったんです。そこから、『女装男子』という設定になったという流れがありました」と続ける。「おしゃれは我慢」という格言もあるように、「ハイヒール」は美しさを求める努力の象徴でもあり、役に説得力を持たせることができた。
“師匠”槇村さとるさんとの出会い 大切にする金言「あなたは時代の子」
小さい頃から漫画家が夢だったという柳井さん。高校生の時に初めて投稿した作品が賞を取り、大学4年生の時にデビュー。「そこからは、にっちもさっちもいかなくなりました。デビューはしたものの、もう『フリーターでいい』と親に宣言して、アシスタントを含めいろんなところをかけ持ちしながら、隙間を見つけて読み切りを描いて発表して、という生活をずっと続けていました」と、順風満帆ではなかった当時の漫画家生活を振り返る。
転機は、昨年デビュー50年を迎え、今も最前線で活躍する漫画家・槇村さとるさんとの出会い。「槇村先生のところにアシスタントとして入ったのが27、8歳の時です。デビューしてから数年間、なかなかうまくいなかったタイミングで先生のアシスタントになって、本当にそれがなかったら今頃どうなっていたか分かりません」と語るほど、柳井さんにとって大きな出会いだった。
「先生が私に問いかけてくださったことは、すごく本質を突いてくる感じでした。自分の中にある考えを言語化することなど、そこで訓練させてもらったことが今もすごく活きているなと思います」と尊敬の念を絶やさない。槇村さんが当時語っていた、柳井さん“らしさ”についても、金言として胸にとめている。
「アシスタント時代、『あなたは今の時代を生きる現代っ子だよ』というようなことを、おっしゃっていただいたんです。『時代の子だから』と。今の時代に合った考え方をしているから、それを生かした方がいい、というようなアドバイスだったんだろうなと思います」と、その真意に思いを巡らせる。「今でも、先生の言葉を大事にしています」
槇村さんからは、「『世代でものを見る』という考え方を身に付けた方がいい」とも言われたという。「その時々の感覚だけではいつかズレてしまうときが来てしまう。ある程度、俯瞰(ふかん)して物事を見られるようにならないと、長くやっていくのは難しいという先生なりの教えだったと受け止めています」と話す。
自身のことを「頑固」と表現する柳井さん。「漫画家になる夢も、やりたくないことも、頑固に持ち続けてきました」という「頑固さ」の一方で、「時代の子」というニュートラルな感覚も持ち合わせる。インスタグラムがブレイクスルーのきっかけになったことは「突然変異です(笑)」とも。
少女漫画家として、「女の子のために」という強い思いも込めた本作のドラマ化については、「もう本当に、シンプルに楽しみです。撮影現場も見学させていただき、『尊敬しかない』と思いました。作品を作り終わったら、あとは受け取った方たちのものだと思っているので、自由に、好きに見ていただきたいです」とコメントを寄せる。