「女の子は0歳から100歳まで」 “全員いい子”なキャラクター設定のワケ

悪役が登場しない、「安心して」読めるストーリーについては、「1巻を描いた時には、最初はまだそこまで意識はしていなかったです」と話す。読者のレビューを読み、「確かにそうだなと思い、皆さんの読み心地が良いのであれば」との思いから、より意識的に、ポジティブな描き方へと舵を切った。

作中には、春香憧れの黒滝先輩の元カノとして、人気インフルエンサーのミオリンや、光に片思いする同級生・シウ(ドラマ内での設定名は「桐谷周」)などが登場し、複雑な恋愛模様も交錯する。「女性の自己肯定感をテーマにして、女の子のために描いているものなのに、ライバル関係に位置する子だからといって悪く描くようなやり方は、絶対にしたくなかった。私にとっての女の子は、0歳から100歳、もしかして120歳、つまりおばあちゃんになるまでです。その『女の子』を取りこぼさないぞ、という気持ちで描いていました」と明かす。「女の子のための物語だから、女の子だけは絶対に守る。救う要素を何かしらちゃんと入れて終わらせる」と強い信念を持ち、「ヒール役ゼロ」の物語を完成させた。

柳井さんが本作で「守り抜いた」女性たちだからこそ、彼女らが思いを寄せる男性に「悪い人はいない」という構図も、悪役のいないストーリーを成立させている。同時に、漫画家として譲れない信念も。「この世界にいると、例えば分かりやすい敵役や『嫌なやつ』を出さければいけないような空気感もあります。話を進めるために出さなければいけないような、そうした役については、『人間、そんなに単純じゃないよね』とずっと思ってきました。嫌なことをしてしまう人にも、みんな事情があるはずだと思うと、そんなに『スカッと』した展開は描けません」と話し、女性のみならずリアリティーに欠ける人物像は、これまでも描いてこなかった。

街行くおしゃれ女子をスケッチ インスタ投稿が作品誕生のきっかけに

柳井わかなさん公式Instagramより

担当編集者が「柳井先生は出来事というよりは『人を描いている』という意識が強いです」と語ると、「そうですね。私の場合、『少女漫画を描くぞ』と思ってやると、何故か空回りして、結果的にスベった作品になりがちで…」と続ける柳井さん。「単純に苦手なのかもしれません。例えば『こういう風に動かのすがいい』と言われても、その人の行動理由を考えて違うとなると、描けません」と、直感に従ってきた。

「人」の行動を見て考える。その行動が「バズ」を呼んだのが、柳井さんが数年前に始めたインスタグラムでのイラスト投稿「街で見かけたかわい子ちゃん」シリーズ。街なかで見かけた女性をスケッチし、柳井さんならではの視点で女性が身に着けるファッションアイテムの特長やおしゃれポイントなどの直筆コメントを添える。

「描いた時間は本当に一枚5分ぐらいなんです。私はずば抜けて絵がうまいわけでもないし、イラストが上手な方はSNSにもたくさんいるのに、『なぜこれが?』と思った時に、描いた『内容』が良かったんだろうなと思いました。その時は深くは考えてはいなかったのですが、単純に炎上したくないという理由で、否定的なことを描くのはやめようと思ったことも、良かったんだと思います」

イラストを投稿するうちに、フォロワーは数万人単位で増加。「漫画でも同じ手法でやってみたらいいんじゃないか?」と手応えをつかんだ。「当時の担当さんからも、次のネタはファッションに関わるものがいいんじゃないかと言われたんです」と、ファッションに「強い」と分かったことが後押しとなり、『シンデレラ クロゼット』誕生につながった。