栁田は0.005秒差でのパリ五輪代表漏れを教訓に

栁田大輝は昨年の日本選手権で3位。2位と同タイムの10秒14(向かい風0.2m)だったが、明確な着差があった。日本選手権前に代表に内定したサニブラウンが出場を回避していたため、栁田は3位でも代表3枠に入れなかった。

「僕だけ95m走でした」と栁田は1年前を振り返った。「それがなければ、と言ったらタラレバでよくありませんが、焦って5mも早くフィニッシュしなくてもいい展開で走れたら、そんなミスは絶対にしないと思うので」。

0.001秒単位の計測では、2位と0.005秒差が明暗を分けた。4×100mリレーメンバーとして代表入りはしたが、予選(2走)の走りが悪く、決勝のメンバーから外れてしまった。

23年は6月の日本選手権で2位、翌月のアジア選手権と、8月の世界陸上ブダペスト代表入りを決めた。アジア選手権で10秒02(無風)の自己新を出して優勝し、世界陸上ブダペストは準決勝に進出した。

しかし昨年は、シーズン序盤に10秒02の自己タイをマークしたが、公認範囲の2.0mに近い追い風(1.7m)の恩恵があった。シーズン全体を通じて走りが「ピッチ寄り」(土江寛裕コーチ)になり、特徴であるストライドの大きさを生かし切れなかったという。

日本選手権までがハードスケジュールだった影響もあった。5月頭にバハマの世界リレー選手権に出場し、帰国してGGPは優勝(10秒21・向かい風0.1m)したが、すぐに渡米してダイヤモンドリーグ・ユージーン大会に出場して8位(10秒26・追い風1.2m)。6月も日本学生個人選手権で優勝(10秒13・追い風1.4m)、そして6月末が日本選手権だった。

その反省で今季は試合選択も考慮している。5月のGGP、アジア選手権とポイントの高い国際試合で2連勝し、Road to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)での世界陸上出場権獲得を有力にした。6月の日本インカレは100mを回避して4×100mリレーだけに絞った(ただし1走に挑戦して、代表試合での走順の引き出しを増やした)。

「去年はずっと走りがイマイチだったので、今年は右肩上がりになるように練習をしながら、レースにも出続けられている感触があります。日本選手権も自信を持って走れる」

前述のように栁田はRoad to Tokyo 2025のポイントで、出場枠の48人に入る可能性は高い。その場合は世界陸連の参加有資格者が公表される8月27日以降まで待たなければならない。標準記録の10秒00を予選、準決勝、決勝のどのラウンドでもいいのでクリアし、決勝で3位以内に入って即時内定を勝ち取ることが最善のルートだ。

レース展開は栁田が、スタートから前半でリードするだろう。サニブラウンの復調次第だが、中盤からサニブラウンが追い上げる展開が予想される。日本記録(9秒95)保持者の山縣亮太(33、セイコー)は、6月28日の広島県選手権で10秒12(追い風1.7m)と復調したが、中盤までに栁田に並びたい。木南記念に10秒09(追い風1.1m)で優勝した小池祐貴(30、住友電工)と、織田記念に10秒12(追い風0.4m)で優勝した井上直紀(21、早大4年)は後半型。フィニッシュライン直前での逆転もあるかもしれない。

9秒台での決着はもちろんのこと、複数の9秒台選手が現れることを期待したい。それができたとき、世界陸上4×100mリレーで、悲願の金メダルに近づく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)