9月開催の東京2025世界陸上の最重要選考競技会である日本選手権が、7月4〜6日に東京国立競技場で行われる。日本最速を決める男子100mの予想が難しくなっている。昨年まで3シーズン連続9秒台で走ってきたサニブラウン アブデルハキーム(26、東レ)が、今季は4大会に出場して10秒3〜4台でしか走っていないのだ。それに対して栁田大輝(21、東洋大4年)がゴールデングランプリ(GGP)、アジア選手権と国際大会2連勝と好調。GGPでは10秒06(追い風1.1m)をマークし、9秒台への期待が高まっている。
サニブラウンは課題だった30~40mの加速に手応え
6月27日に宮崎合宿を打ち上げたサニブラウンが、日本選手権での復調に自信を見せた。
「徐々に体が、頭に追いついて来たかな」
今季は特に、中盤の加速を課題としている。23年シーズン終了後のトレーニングで、スタートの改善に成功した。2歩目の動きを変更し、3歩目以降のロスが大きく軽減した。その成果は9秒96(追い風0.5m)の日本歴代2位として現れた。だがその走りを、パリ五輪準決勝でしても決勝に進めず、さらに上を目指すために何が必要かを考えた。GGP前日には次のように話していた。
「30〜40mくらいまでは良かったのですが、そこからまた乗っていかないといけないのに乗れなくて、60〜70mくらいまで一定のスピードで行くだけの走りになっていました。100mのうち30mを無駄にしているんです。9秒7~8台で走る選手はそこで伸びてくる」
冬期練習もそこを意識して行った。しかし、4月のダイヤモンドリーグ厦門(10秒42・追い風0.2m)は「ノーカウント」と話す事情があったが、6月の3連戦、ローマ(10秒31・追い風1.1m)、オランダ・ヘンゲロ(10秒44・向かい風1.0m)、フィンランド・ツルク(10秒34・追い風0.7m)と、中盤の加速に挑戦したが現時点ではできていない。
「スタートも含め、体が(やろうとしていることに)まったく追いついていませんでした」のなかでも試合を重ね、タイムには明確に表れていないものの、サニブラウンの感覚では進歩があった。
「オランダでちょっと修正して、フィンランドでは50m過ぎまで悪くない動きができていました。動きが噛み合っていないだけなのかな」。その点が宮崎合宿では、徐々に噛み合ってきた手応えを感じられたという。サニブラウンは今の状態を、風邪を引いたときの症状に例えた。
「熱が出て、咳が出て、鼻水が出て、治っていくパターンがあるじゃないですか。体に対する理解度が上がったことで、自分の体がこういう段階を踏んで、歯車が噛み合って走れるようになる。そういうアイデアがしっかり浮かぶようになりました。良い感じにまとまってきている段階です」
昨年の9秒96で、世界陸上の参加標準記録(10秒00)は突破済み。代表入りのためにタイムは必要ない。日本選手権では順位だけが求められ、3位以内に入れば代表に内定するし、今回の選考基準では決勝に進めば代表入りが有力になる。例年の状態なら何の問題もない選考基準だが、今季のタイムを見ると低くはないハードルである。
それでもサニブラウンは「勝負に関しては、(こだわりは)まったくないですね。準決勝を突破する、なんてことを考えていたら話にならないので」と、代表選考は気にしていない。意識するのは走りの内容を良くしていくことだけだ。
「(予選、準決勝、決勝と)1本1本、走るなかで明確にテーマを決めて、それをまた次のレース、次の大会につなげていけるように、パフォーマンスを上げていきたい」。今シーズンの一番の走りは世界陸上でできればいい、という考えもGGPの際に示していた。日本選手権は「世界陸上に向けて準備のための大会」と位置づけている。

















