今回の参院選を展望~“劇的な結果”が出る可能性は?~
それでは今回の参院選はどうなるのか。まずは現状の勢力分布を概観してみたい。
参院の総定数248のうち、自民・公明の与党は現在141議席を占めていて、非改選は計75議席だ。このため今回の選挙では自公で50議席以上を確保できれば75+50=125で、参院の総定数248の過半数を獲得できることになる。
改選議席の総数124のうち50の獲得(40.3%)というのは、必ずしも高いハードルではない印象を受ける。与党関係者からは「与党過半数割れはないだろう」という楽観的な声も上がっている。
しかし、何が起こるかわからないのが選挙だ。ましてや参院選で、自民党は何度も苦い経験をしてきた。果たしてどういう戦略で自民は臨むのか。
最大の関心事は高騰するコメ価格を含めた物価高対策だ。コメに関しては小泉進次郎農水相が備蓄米の放出を繰り返しアピールしている。内閣支持率の低迷に悩む石破政権だがここにきて若干の回復基調を見せ始めたのはこの備蓄米の放出が一定の評価を得ているという見方が強い。
またコメ以外の物価高対策について石破総理や森山幹事長ら政権幹部は、一つの賭けに出たようだ。石破総理は6月13日、こう語った。
「決してバラマキではなく、本当に困っておられる方々に重点を置いた給付金を/検討するように指示をいたしたところであります」
石破総理は国民1人あたり2万円、さらに子どもには1人あたり2万円を加算する給付措置を選挙公約に盛り込むよう党に指示したことを明らかにした。野党の各党が物価高対策として“消費税減税”を打ち出す中、消費税の見直しはしないというスタンスの政府与党としてはそれに替わる政策パッケージを打ち出さざるを得ないということで“バラマキ”批判もある程度覚悟して現金給付に踏み切ったのだろう。
これに対し、石破総理と選挙で戦う野党第1党の立憲民主党・野田佳彦代表は翌日、“選挙前に人参をぶら下げるようなもの”と批判した。しかし立憲民主党が発表した公約を見ると「1人あたり一律2万円の給付」や「来年4月から最長で2年間、食料品の消費税率をゼロにする」などが柱となっている。物価高対策に限ってみれば現金給付と限定的な消費税減税が柱になると言える。減税を除けば、自民と大きな違いは窺えない。
こうした疑問に対して野田代表は“自分たちは制度設計をして財源も決めて給付を訴えている。それに比べて自民は一貫性が感じられない”と、違いを強調している。
野田代表は「財政健全派」と目されている。彼が総理大臣の時であった2012年、今後さらに拡大する社会保障費の恒久財源を確保するため、当時の野党自民党・谷垣禎一総裁、公明党・山口那津男代表と消費税を段階的に10%まで引き上げることを決める、いわゆる「3党合意」を主導した当人だ。財源を確保するにはどうしたらいいかということにはこだわるタイプの政治家だ。
そのため参院選の公約をとりまとめるに際しても、当初野田氏は消費税減税について消極的だった。今年2月頃筆者がある立憲民主党の幹部と話をした際には「国民民主が“103万円の壁”などで勢いづいている。うち(立憲)としては消費税減税に舵を切りたいのだが、代表はその点は慎重だ」と打ち明けた。
しかし、物価高の勢いが落ち着きを見せない中、国民民主党など他の野党の動きを警戒する党内の懸念を受け、野田代表も限定的とはいえ消費税減税を公約に組み入れたのだろう。
参院選の公示を前に石破総理、野田代表それぞれ舌鋒が鋭くなってきているが、筆者はこの2人は政治家としては似通ったタイプに思える。また、強い親和性を感じることも時々ある。
2人をよく知る関係者は「いまは総理と野党第1党の党首だからそんな接触は出来ないだろうが、連絡し合える関係であるのは間違いない」とその距離感を語る。
国会の会期末に話題となった内閣不信任案についても野田氏は一貫して提出に慎重だったと筆者は見ている。もちろん提出せざるを得ない状況に追いやられることも想定したであろうが、野田氏が積極的に提出を検討した形跡は窺えなかった。
それは石破総理も同様だった。6月に入り、自民党の幹部が「不信任案が提出されたら総理は解散を選ぶだろう」という“牽制球”を投げたが、それも衆院で与党が議席の過半数を獲得できていない「少数与党政権」のもと、立憲民主党が不信任案を提出することでの“ハプニング解散”を防ぎたいための予防的措置だったと解している。
この2人の言動を見て感じるのは、「お互いに対話を求めている」ということだ。参院選は始まってみなければわからないがこの原稿の執筆時点(6月20日)での情勢を鑑みるに、特定の政党に勢いがあるという空気は感じられない。1989年の「山が動いた」、98年の「橋本総理退陣」、2007年の「衆参ねじれ」のような劇的な結果になる可能性は低いと筆者は見ている。














