◆日本側に法廷記録がほとんどない

巣鴨写真集より

<いわゆる「戦犯」の釈放、減刑等に対する一般勧告の重要緊急性についての意見 厚生事務官 豊田隈雄>※現代風に書き換え
一、平和条約成立の今日、「戦犯」の急速なる処理解決は、独立国、日本の課せられている重要かつ緊急な問題である。

二、この問題の解決は過日発布された「平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律」による減刑仮釈放などの個人、又は事件内容の審査実施の方法だけでは、極めて特殊な場合以外、到底その目的は達し得ないと確信する。

理由
(一)日本側に法廷記録がほとんどなく、事件内容に関して有力なる根拠を以て減刑釈放等の勧告を行うことは、ほとんど不可能である。

(二)たとえ服役者その他について勧告の資料を求めても一方的なものとなり、裁判が終了した今日においては、極めて弱いものとなる。

(三)服役者は裁判時の弁護方針にも起因して、それぞれの被告間の利害関係が錯綜しているため、いまさら自分だけに有利な勧告資料を出すことを潔しとしない。

◆個人や事件別の勧告に止まらず「政治的勧告」を

いわゆる「戦犯」の釈放、減刑等に対する一般勧告の重要緊急性についての意見 (国立公文書館所蔵)

戦犯裁判の資料は、裁いた国が持ち帰っているため、日本には法廷記録がほとんど無い状態だった。そのため豊田は、個人や事件の内容審査という方法では、わずかに所定の資格に達した人々の仮釈放しか実施できず、服役者の3分の1以上を占める終身刑の人々をはじめ、重労働40年、50年の長期刑の人々は今後10年以上の服役を必要とすることになると懸念していた。

豊田は、個人別、事件別の勧告に止まらず、一般勧告(政治的な勧告)を積極的に活用することに重点を置くべきだと主張している。そして「戦犯」そのものの内容と実情をあわせて考えるとその感を強くするとして、理由を述べている。