■ネット投票は技術的に可能なのか
ーーいいことばかりのようにも感じますが、なぜ日本で「ネット投票」が進まないのでしょうか?
最近つくづく感じている日本の限界というか、難しい状況が2つ考えられます。1つは、本当にそういうシステムを作るだけの実力が我が国にあるのか。例えばCOCOAっていう、厚生労働省の陽性者が近くにいた場合に通知するシステムが実は全然動いてなかったということがありました。また、雇用調整助成金をオンラインでやろうと思ったらすぐダウンしたとか、システムトラブルはもう山ほどあるわけです。
システム構築で国の根幹に関わるようなところはどうしても海外の業者にお願いしにくい分野なわけです。それを日本の会社や技術者だけで賄おうとすると、やっぱり限界があるんじゃないかと。だからここは全体として日本の技術力・IT力を上げないと、そもそもこういうことができないという話です。
もう一つは、日本の選挙制度をネットで作った場合に、本当にサイバーテロに耐え切れるだけのセキュリティを持ったものを作れるかどうか、ということがあります。例えば埼玉県のどこかの投票所の、例えば2万票はどうもサイバーによって書き換えられちゃってるかもしれないといったら、埼玉県だけじゃなくて、場合によっては全国の選挙が無効になりかねないわけです。だから相当なセキュリティが必要なんです。ここは非常に高い壁の一つだと思います。
■技術面よりも高い壁があった それは“現職議員”
ーー選ばれる側、つまり、現職の議員の人たちは「ネット投票」をどう感じているんでしょうか。
実は、これが多分最大の壁だと思います。ブログや、SNSを使った「ネット選挙」も以前は認められてなかったんです。それを自由化しようとした時に大反対したベテランの議員の人たちがいて、その人たちを見て思ったのは、やっぱり当選を重ねれば重ねるほど、選挙制度を変えたくないっていう意識になるんだと思うんですね。「今のままであれば私は当選を続けることができる」「なんでそんな余計なことするんだ」って話に多分なるんで、やはりそこは一番の壁になってくると私は思います。
ーーネット投票への障壁は、システムよりも“現役議員”ということでしょうか?
システムはもちろん大きな壁ですけど、現実は国会でそれを通さなきゃいけないわけですね。実はネット投票って世界の民主主義国家でほとんど行われていないんです。やっぱりどの国でもネット投票を入れることについては、システムの壁とともに、現職の議員からするとあまり気の進まないことなんだなっていうのは世界共通ですよね。
ーー牧原さんも現職議員ですよね?
そもそも私の選挙は厳しいんであまり当選に汲々として、やるべきことをやらないのはどうかと思っています。仮に私が落選しようが、若い人たちの投票率を上げないと、この国の民主主義もやばいし、それから年配の人がまず数も多いわけです。
20代の人はそもそも数が少ないのに、例えば投票率が60代は7割、20代は2割だったら、投票してる人数が全然違うわけですね。そうすると立候補者は当選するために「若い人は無視しても年配の人たちの票を取らなきゃ」という話になるんです。それを変えるためにもネット投票を含めた制度改革をやり遂げたいんです。そのために私なんか落選しても、まあしょうがない。そういうふうに思っています。
ーーえ、本当ですか?
そういう覚悟がなかったらできないですよ。こんなことやって不利になっちゃったらどうすんだっていう不安は多分現職の議員がみんな持っているから、この制度どこでも進まないんで、誰かが覚悟を決めないと進まないと思うんですね。いや、落選してもいいって言ってるわけじゃないですよ。落選するとかしないとかいうことを気にしないで、やっぱり正しいと思うことをやり遂げたい。
