「お米ナショナリズム」との付き合い方
それでは、「米と愛国」というテーマについてどう向き合っていけばいいのでしょうか。
藤原さんは「『お米はナショナリズムと絡んでいるからお米ばっかりじゃなくパン食べればいいのに』っていう議論はちょっとおかしいと思っています」と話します。背景には、小麦の流通をめぐる問題があると藤原さんは言います。「グローバルな小麦の流通は十指に満たない数の巨大穀物商社が独占しています。米はナショナリズムと結びついているからパンを食べろっていうことになると、世界で小麦を買い占め投機し流通させる『食権力』の支配下になってしまう。日本国内の権力関係には敏感でありながら、世界的な食をめぐる権力システムに鈍感な論がネット上にもみられますが、端的にいって本末転倒です」
藤原さんは、地域ごとの食文化を見直していくことが大切だと語ります。「もっと地域ごとの風土に根ざした食文化っていうのを見直していくときが来ています。偏狭なナショナリズムの経路でもなく、巨大な穀物商社に頼る経路でもなく、地域の食の多様性を守り、破壊されていれば作り直していくということが大切です」
ふじはら・たつし
京都大学人文科学研究所教授。専門は歴史学、とくに農業史と環境史。20世紀の「食」と「農」の歴史や思想について研究し、これまで戦争、技術、飢餓、ナチズム、給食などの分野に取り組んできた。主な著書に『稲の大東亜共栄圏』『ナチスのキッチン』『給食の歴史』など。