「生きながら死ね」ガザが置かれてきた状況

「イスラエルはパレスチナの人々を虐殺し続けてきた」

パレスチナ問題の専門家、早稲田大学の岡真理教授が5月23日、「入植者植民地主義の《ジェノサイド》」と題して、福岡市で講演しました。西南学院大学法学部の田村元彦准教授の呼びかけで、学生たちが150人近く集まりました。

岡真理さん:皆さん、こんにちは。今日は、西南学院大の学生の皆さんに、ガザのこと、パレスチナのことをお話しする貴重な機会を作ってくださいました田村先生に、まず心からお礼申し上げます。この間、ジェノサイドが止まりません。日本の主流メディアの報道は、ガザで起きていること、その質と量、その強度、濃度、密度に見合った報道では全然ないんですね。

岡真理さん:メディアがパレスチナに注目するのは、戦争の時だけです。ガザ地区は2007年に、国際法に反して、完全封鎖されているんです。一時的軍事攻撃が終わっても、ずっと封鎖という構造的な暴力の状態に置かれている。7年続いていた2014年の時点で、51日間にわたる戦争があって、イスラエルが無条件停戦案を提案した時に、ハマスは蹴りました。「国際法違反の封鎖解除を伴わない停戦なんて、受け入れられない」と。そうしたら、日本をはじめ西側メディアは「イスラエルがせっかく停戦を提案してくれたのに、ハマスがわがままを言ってせっかくの停戦案を蹴った」。毎日ガザの人たちを殺しているのはイスラエルであるにも関わらず、ハマスを非難したんですね。

岡真理さん:その1週間後に、ガザのパレスチナ人市民代表たちが英語でメッセージを発表しました。「ガザに正義なき停戦はいらない」と。要するに、無条件で停戦するというのはその時点で7年続いていた封鎖の状態に戻るというだけですね。攻撃はやむかもしれないから、あなたたちは依然としてこの封鎖の状態で生きなさいと。それに対して、「そんな停戦を受け入れるというのは、我々に対して『生きながら死ね』というのに等しい」と言って。

メディアに対する批判も強く出ていました。私たちは「この地域では戦いがあるもの」として、慣れてしまっているのかもしれません。「先月より死者が少なかったから、ニュースじゃない」とか、「ちょっと多かったけど毎回あることだから」とか、私たちは麻痺しているんじゃないかとも思いました。

「地獄に落ちても今のガザなら同じ」

天神に翻ったパレスチナの旗=福岡市で2024年5月、神戸撮影)

そもそも、1948年にイスラエル建国時に起きた、パレスチナの人たちが「ナクバ(破局的大惨事)」と呼んでいる出来事が起きてからずっと、残ろうとする人たちは殺されてきた歴史があります。つまり、建国以来ずっと、イスラエルはパレスチナの人々を虐殺してきた「入植者植民地主義」の国なのだ、ということを岡さんは強調していました。

そして2007年、ガザの完全封鎖。「生きながら死ね」と、イスラエルの許可なくして食料や医薬品などの搬入も認められません。ガザを出ることもできません。「天井のない監獄」とも言われてきました。岡さんによると、若者の自殺が増えているそうです。イスラム教で自殺は、人を殺す他殺と同じレベルの罪で、地獄に落ちると禁止されているそうですが、その教義を持っている人たちが展望のなさに絶望して、「地獄に落ちることと、ガザで生きることは変わらない」と、自殺しているという状況が続いてきたということです。岡さんは、そこを理解してほしいと訴えかけました。

質問する学生

学生からこんな質問が飛びました。

学生:難民について現在私は学んでいて、ウクライナからの難民について、政治的に日本は補完的な保護を与えているにも関わらず、ガザの人には全く何も与えていないし、難民認定でもたった8人しか認定されていないということが、いかに政治的な思惑が入っていたのかということを本当に思いました。政治に左右されない、正しい情報に行き着くために、私たちはどのようなことをしたらいいのか。アドバイスをいただきたいです。

岡真理さん:ガザの住民の7割が難民とその子孫ですね。だから難民です。JICA(国際協力機構)は、ずっとガザで活動しているんです。私達の税金が使われているわけですね。だけどね、病院を作ったり、学校を作ったり、それって、もちろんガザの人たちのためになっています。

岡真理さん:なっているけど、封鎖・占領という大元を問わないで、何とかその状況の中でガザの人たちが、病気になったら病院にかかれて、教育も受けられて、でも教育を受けたって、大学卒業したって、ガザの中でずっと閉じ込められていて、あるいはもう経済基盤を破壊されてしまっているから学費も続かなくて退学しなきゃいけないとか、だから若い人たちどんどん自殺をする。その大元のところに何も関わらずに、大局的に見たら、これは占領の維持に加担することになっています。イスラエル大使を本国に送還して、イスラエルとの全てのパートナーシップを打ち切る、というようなことをしなければいけないのに、今日本が行っているのはその逆ですよね。

岡真理さん:まずはしっかり学ぶことだと思います。ショートカットで手に入れることはできないと思います。何が正しくて、何がそうじゃないのかは、自分がしっかり学ぶことでしか分からないと思うので、学んで、かつ議論をしてください。