「ヒューマニティの完全崩壊」が起きている

そのガザに対する激しい攻撃が、20か月ずっと続いています。ガザ地区の住民は約230万人。直接攻撃で亡くなっている方だけでなく、負傷した方が後に亡くなり「関連死」とされるものもあります。それから今、餓死が始まっています。
岡さんによると、最近の紛争では、間接的な死者は直接死者の3~15倍に上るという統計があるそうです。ここで仮に、「直接死1人につき、間接死4人」と控えめな推定をした場合、ガザの死者は30万人に近い数字になってきます。控えめに見て、230万人のうち30万人近くがもう死亡しているのです。その中には多くの子供たちもいます。この状況をどう考えるか、ということです。
岡真理さん:ガザのジャーナリストは、「とにかくこれを世界に伝えなければ」と思って、毎日伝えている。何のために伝えていると思いますか?本当に命をかけて。しかも、狙い撃ちとは、スナイパーがその人だけ狙って殺すんじゃないんです。スマホだとか、パソコンネットにつないだら居場所が特定できますよね。AIでその人がいる場所を特定して、そこにミサイルを撃ち込むんです。テントや、その人がいるアパートの部屋にミサイルを撃ち込んで、周りにいる家族もろとも殺すんですね。
岡真理さん:いろいろなパレスチナの情報サイトがあります。そこに、この状況の中でも何とか発信できる人が英語で書いたものを投稿しています。でもそれを読むと、「自分がこれを書いて投稿するのは、それによって世界が何かしてくれると期待しているからじゃない。もうそんなのは期待してない。でも、何があったのか、何が起きたのか、その記録を残すためだ」という人たちもいます。そこまで絶望させているんですよね、私たちは。
岡真理さん:これが「ヒューマニティの完全崩壊」であり、「私たちが今、道徳的岐路に立たされている」というのはそういうことなんです。この攻撃はいつかは終わるでしょう。でも、それはいつなのか。どのように終わるのか。そしてもう既に30万以上が、世界が知っている中で……。ナチスのホロコーストと何が違うのか。ナチスは自分たちがやっていることが犯罪だと思っていた。だから隠した。「これが世界の知るところとなれば、自分たちはこの世界の中でその存在する場所を持たない」ということをわかっていたから。でもそうじゃないわけだよね、イスラエルは。
岡真理さん:そしてまさに、「世界に存在する場所」があるわけですよ。今、大阪で何やっていますか?万博のスローガン、キャッチコピーは何?「いのち輝く未来社会のデザイン」です。そこにイスラエルも参加していて、しかも「ナクバ」記念日、この全ての悲劇の始まりの日、5月15日にイスラエルのナショナルデーをやるということを、大阪も日本も許しているわけです。「あなたたちは、1年半で30万人を殺してもいいんですよ」「『いのち輝く未来』というテーマで、好きなことをやってください」と。
胸が痛くなります。イスラエルを批判することは、反ユダヤ主義でもなんでありません。人道に対する犯罪を止めさせることだと私は思います。「人類は、道徳的岐路に立っている」という岡真理さんの言葉を重く受け止めたいと思います。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種サブスクで視聴可能。5月末放送のラジオドキュメンタリー『家族になろう ~「子どもの村福岡」の暮らし~』は、ポッドキャストで公開中。