どんな練習にも120%の準備で臨む飯澤

今季の目標を「一番は東京2025世界陸上出場」と話したが、それを達成するためのトレーニング方針は少し意外なものだった。「世界陸上参加標準記録の3分33秒00を考えてトレーニングをしていきます。そのためには特別な何かをする必要はなくて、ケガをしないで練習を継続すればタイムは勝手に出てくれる」

日本記録は3分35秒42で、飯澤の自己記録は3分35秒62の日本歴代2位。飯澤は「アジアの中距離のレベルは低いので」と現実を直視するが、近年日本のレベルが上がっているのも事実。その中でも3分38秒未満で4回走っている飯澤は、日本記録を更新する候補の一番手に挙げられている。しかし3分33秒00とは2秒62と、その差は小さくない。飯澤も「日本記録は時間の問題と思っていますが、参加標準記録は難しい記録ではあると思う」と認識している。それでも「日本記録を狙ってトレーニングをしていけば、3分33秒もイケる」と、特別な練習はしないことを繰り返した。

荒井にトレーニングに関する説明を取材して初めて、飯澤の「練習を継続するだけ」の意味が理解できた。荒井は自身もそうだが、「どんな練習でもレースのような準備をすること」をトレーニングの基本に置いている。それを完璧に実行しているのが飯澤だ。「彼はワークアウト(負荷の高いメニュー)でもジョグでも、リカバリーでも、120%の準備をして練習に臨んでいます。その積み重ねがあるから、本来のコンディションとはかけ離れた状態だったアジア選手権でも、120%の力が出せたのだと思います」

つまり普段から練習強度が高く、今以上に上げる必要がない。そこに「継続するだけ」で3分33秒を狙える理由があった。客観的には練習強度が高い練習といえるが、荒井は別の言い方をした。「1500mは日本人が、世界と戦うところに到達できなかった種目。強度が高いことをやるというより、必要なことをやっているだけです」120%の準備をして行う練習は「それ相応の努力」はしているが、それが特別難しいことと考えたらストレスが大きくなる。“当たり前にレベルの高い練習を行う”のが、荒井と飯澤の考え方なのだ。