陸上競技のアジア選手権は5月27日に韓国クミで開幕。大会2日目の28日に行われた女子400mでは松本奈菜子(28、東邦銀行)が52秒17で金メダルを獲得した。
静岡国際(5月3日)で出した52秒14(日本歴代2位)の自己記録には惜しくも届かなかったが、昨秋から屋外400mでは7レース連続の52秒台と安定した強さを見せている。Road to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)のポイントも出場資格獲得圏内だ。女子400mのアジア選手権優勝は09年大会の丹野麻美(当時ナチュリル。51秒75の日本記録保持者)以来16年ぶり。松本が東京2025世界陸上に出場すれば、09年ベルリン世界陸上の丹野以来の代表となる。
まさかの外側レーン選手の侵入
大会初日の予選2組で52秒24と、予選全体のトップタイムで通過していた。「決勝も同じレース展開を」と考え、前半を1つ外側のアミナット・カマルディーン(17、アラブ首長国連邦)が飛ばしても、6レーンの松本は予定通りのペースで走っていた。
“あり得ない事態”が起こったのは第4コーナーを抜けてホームストレートに入ったところだった。カマルディーンが松本のレーンに入ってきたのだ。オーバーペース気味に飛ばした反動で、疲労が大きく冷静さを欠いていたのは間違いない。だが、侵入された方はたまったものではない。
「一瞬、自分がレーンを間違えたかと思いましたが、いやいや、6レーンだよなと。その選手が自分のレーンの外側の方にいたので、内側から抜くタイミングを見計らっていましたが、内側の白線を踏んだら自分も失格になってしまう。それだけは気をつけながら抜きました。落ち着いて対応できたと思うのですが、コーナーも良い感じで抜けて来られたので、あそこはもう少し思い切って行きたかったですね。惜しかったな、と思いますが、そういった中でも52秒1台を出せたことは自信になります」
カマルディーンは失格になったが、51秒台を出す好機を逃してしまった。だが今回のレース展開や走りの内容が良かったことを、今後につなげられれば無駄にはならない。
何より、アジア選手権のタイトルを取ったことに、松本自身が違いを感じている。「自分の陸上人生において、勝ちきって『やったな!』と思えるレースが、これまであまりありませんでした」。アジア選手権での勝利が、今後の国際大会で活躍するステップになるのではないか。