MZ世代を中心に広がる“金正恩への不信感”
学校でもそうだったが、工場で働く人の中には、KPOPアイドルや韓国のドラマに心酔したMZ世代が多かったとスヒさんは話してくれた。
北朝鮮では金正恩総書記の指示で厳しい思想調査や検閲が実施されていて、韓国ドラマなど韓国の文化にふれていたことが分かれば、銃殺刑に処されることもあるとされる。
実際にスヒさんの町でも、韓国文化にふれたことがバレて処刑された人もいた。
それでも周囲の韓国ドラマなどの人気は収まらなかった。当局が厳しく規制すればするほど、人々の心のなかでは、むしろ北朝鮮体制への不信感が強まっていったという。
“なぜ自分たちは自由に海外の映像をみることができないのか” “なぜ国は自分たちに韓国は貧困国家だと嘘を言っているのか”など、立て続けに浮かぶ素朴な疑問は、“金正恩総書記は何者だ?”という北朝鮮の体制に対する疑問につながった。
コロナでさらに広がった反発
スヒさんの記憶では、人々の中で金総書記への不信感や不満が蔓延し始めたのは新型コロナウイルスが流行り出してからだった。
中国との国境を封鎖し、最初はコロナの感染拡大を北朝鮮はコントロールできているようにみえていた。
しかし、変異株が登場してから状況は一変。高熱で倒れる人が増え続け、高齢者を中心に死者が急増したという。
治療法としてヤナギの葉などを煎じて飲めば治ると当局は宣伝していたが、まったく効果はなかった。
そして、ある日、空から無人機で中国語が書いてある医薬品が投下された。
北朝鮮メディアが「金正恩総書記が国家の予備医薬品を急ぎ普及させるよう非常指示を下した」と大々的に報じて数日経ってのことだった。
国が自力でコロナ感染拡大を的確にコントロールしているかのように宣伝していたが、実際のところは中国からの援助があったからであり、当局の話は全て嘘だったのだと気が付いた。
